wazatodayo

 03


誕生日当日、部活にやってきた新開は気持ち悪いくらいデレデレした顔をしていた。

「んだよ、新開ィ、顔デレてんぞ」
「靖友!インハイのマップどこだっけ?」
「はァ?マップ?あー、わかんねェ黒田に聞いて」

俺の声掛けには全く反応せずその男はニヤニヤとした顔のまま後輩の元へ駆け寄った。
「黒田!インハイのマップ1枚欲しいんだけどどこだっけ?」
「新開さん何か良いことあったんすか?」
「ああ、ちょっといい誕生日プレゼントをな」
「あ、今日誕生日でしたね、おめでとうございます」

「ありがとな」なんて言いながら、緩みきった顔を変えずに黒田からコースの地図を受け取ると、こちらに戻ってきてペンを取り出す。
キュッ、キュッ、と音を立てながら地図に丸をつけ始めた。

「隼人、これはなんだ?」

隣に座っている東堂が問いかける。

「俺が活躍するであろう場所」

ニヤニヤとこちらを見ながら話すとまた丸をつけ始める。

「ンなの、丸つけてどうすんだヨ」

よくぞ聞いてくれた!と言った顔でこちらを見た男に、面倒臭いことを聞いてしまったと内心少し後悔する。

「実はな、見に来てくれるんだ」
「うさぎの子だな!?」

東堂の言う『うさぎの子』というのは俺のクラスの姓チャンのことで。この顔が緩みきった男がかれこれ1年近く片想いをしている相手だ。

「聞いてくれ俺の誕生日なのにさ、ウサ吉の餌を豪華にしたとか言うんだよ、可愛すぎだろ?だから、誕生日プレゼントにインハイの応援をリクエストした」
「やるじゃないか!」
「それでオススメの観戦スポットを教えてくれって言われたんだ」
「それでこれに作ってるわけねェ」
「それからなんと連絡先もゲットしたぜ」
「やっとかヨ」
「うさぎの子と出会ってもう1年くらいか?」
「ちょうど1年だよ、去年の誕生日に初めて話した」

よくもまあそんなこと覚えてんな、と思いながら話を聞き流す。

「最高の誕生日だ」

そんなことを呟きながら丸をつけ続ける新開を見て、そんなにたくさん丸つけても姓チャンの体ひとつしかないから見れねェだろとツッコミを入れておいた。

***

その翌日、タイミングよく、と言えばいいのか、日直の相手が姓チャンだった。

放課後、日誌をつけるために彼女の前の席に座る。

「荒北くん、私つけるから平気だよ。部活でしょ?」
「ンァ?俺も日直だからいいんだヨ」

うさぎの子、もとい姓チャンは、1年の時に1度同じクラスになった。突っ張っていた俺にも物怖じせず話しかけてくれた随分と気前のいい子だ。

「荒北くんもインハイ出るんだよね」
「荒北くん『も』ォ?」
「あ、いや、えーっと」
「ハッ、嘘だヨ、新開だろ」

荒北くんも、なんて言う姓チャンを少しからかうと戸惑ったように笑った。

「応援してるね」
「ドウモ」
「その、」
「アァ?」
「応援してるのって気がつく?声って聞こえるのかな?」

自分を見てほしい場所に丸つけてる男が気が付かないわけがないだろ、と思いながら彼女の顔を見るとほんのりと頬を染めていて、早くくっついちまえと心の中で呟く。

「気が付くんじゃねェの」

そう言うと彼女は嬉しそうに笑った。
その顔は普段教室で見せる大人しそうな笑顔の数倍は可愛らしく見えた。

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