16
「名!」
逃げるようにして食堂を去ったあと、その彼が私に追いついたのはすぐのことだった。
「何、新開くん」
「違うんだってば」
「何が」
「ちょっとこっち来て」
苦い顔をして私の腕を引く彼に黙ってついていく。
連れていかれたのは屋上だった。
「違うから」
「別にいいよ」
「あの子とは何もない」
「そう」
「転びそうになったのを受け止めただけ」
「別に私には関係ない」
「ちゃんと誤解解くし、その子にも話すから」
「だからどうでもいいってば」
「名、こっち向いて」
「やだ」
あの写真が脳裏に浮かんで何故だか涙が出そうになる。
インターハイが終わってから涙脆くなったのだろうか。
「名」
両頬を手で包まれて無理矢理顔を上げさせられる。
「ごめん、傷つけて」
あ、だめだ。隼人の顔を見たら我慢してたはずの涙が零れ落ちてきた。
「ごめん、名」
隼人が私の頬を伝う涙を大きな手で拭ったと思えば視界が真っ暗になる。
あっという間に、隼人の香りに全身が包まれる。
隼人に抱きしめられたことを理解した。
「名」
「やだ、離して」
「離さない」
「やだ」
「名、ごめん、今まで中途半端にして」
「隼人、離し…」
「好きだよ」
「……っ」
「名、ちゃんと彼女になって」
「……ずるいよ、今言うの」
「好きだよ、大好き」
「……」
「名は?」
「……隼人のバカ」
「何?大好きって言った?」
「言ってない」
「じゃあ大好きって言って」
「……バカ……」
「大大大好きの方がいい?」
「バカバカバカ………」
「うん」
「……大好き…」
「ファーストキスからやり直してくれるか?」
「…うん」
抱きしめる力を緩めると隼人が私の手に指を絡め唇を近づける。
目を閉じると同時に柔らかくて暖かい唇が触れた。
「名、大好きだ」
ようやく、彼の心と本当に通じ合った気がして、身体中暖かい何かが広がる気がした。