wazatodayo

 いっそ君の記憶だけ捨ててやりたい


委員会で遅くなったその日、部室に着くと目に入ってきたのは靖友が自転車に乗ってローラーを回している姿だった。

私の顔を見て、入部を取りやめると言う靖友の腕を思わず掴む。

ああ、もう、ムカつく。
悲劇のヒーローかよ、ふざけんな。
いつまでも逃げてるなんて私の好きな靖友じゃない。

怒りに任せて口を開くと今まで溜め込んでいた想い達が言葉に乗って靖友へぶつかっていく。

「逃げないで」と彼に話したあと、暫く彼の目を見ていると、色が変わったのを感じた。ああ、きっと彼は自転車をやるだろう。そう思った。

***

ロッカーに戻ると東堂と新開が声をかけてきた。

「ヒュウ、随分と男前だったな」
「ごめん、お騒がせして」
「名、あいつは何者だ」
「ダサいリーゼント切ったばっかの、ただの元ヤン」

東堂の声掛けにそう答えると彼は不服そうな顔をしていた。

「靖友、と呼んでいたな」
「1B、荒北靖友。どうせ自己紹介もしてないんでしょ」
「ヤツの名前を聞いているんじゃない」

珍しくムキになっている東堂の質問の意図はわかっている。

「他人のフリしろって、ムカつく事言われてるんだけどな」
「どういうことだ」
「幼馴染、あの人」

そう言って靖友を指差すと、東堂はポカンと口を開け、新開はヒュウと楽しそうに笑った。

「迷惑かけるかもだけど、宜しくね、根は良い人だから」

どうして私が靖友の人間関係の心配をしなきゃいけないのだ。ばかやろう。

「いつまでやらせンだ!早く外走らせろ鉄仮面!!」

自転車を教えてくれている福ちゃんに対してなんて失礼なことを、確かに的は得ているけど、なんて思いながら、いまだにローラーを回し続ける靖友に目をやる。

久しぶりに彼が必死に何かをしているところを見れたことは少し嬉しい。

「さ、2人とも準備準備!」

未だ微妙な顔をしている東堂とその彼を隣で楽しそうに見ている新開に声をかけて着替えを手に取る。

一瞬出てきてしまった宝箱にしまった恋心は、もう一度閉まって心の奥底、もっともっと深いところに鎮めようと誓った。

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