wazatodayo

 09


新開くんが告白を断るときに彼女がいると断ったらしい、という噂は私の想像を遥かに超えるスピードで学校中に広まった。

誰と付き合っている、ということは聞いても答えてくれない。そう専らの噂だった。

「ちゃんと名のこと守ってくれてるんだね」

デートのきっかけとなるワンピースを選んでくれた友人は嬉しそうに私の目の前でお弁当を食べていた。

「でもすぐバレちゃうかも、名可愛くなったし〜」
「そんなことないから、もう!からかわないで!」

キューピッドしたから卵焼き1つもーらい、っと私の卵焼きを奪う彼女に、色々ありがとうとお礼を伝えると、名が幸せそうで私も幸せだよと笑ってくれた。

***

お互い秘密にしようと話したわけではないが暗黙の了解かのように付き合い出したことは仲の良い友人にしか話していなかった。
勿論、今まで通り、学校で新開くんと話すのはウサギ小屋の前だけだ。

その日はホームルームが少し長引いて、向かうのが遅くなってしまった。新開くん、まだいるかな、そんなことを考えながらウサギ小屋に向かった。

「姓さんっ」

呼び止められた声は新開くん、のものではなく、クラスの男の子のものだった。

「ごめん、呼び止めて」
「ううん、ごめん、私今日掃除当番だった?」

おかしいな、先週やったばっかだと思ってたけど。そんなことを考えていると目の前にいる彼は首を横に振った。

「違うんだ、その…ちょっと時間欲しいんだけど」

そう言うと彼はウサギ小屋のそばにある木の陰まで歩いていくので、私もそれについていった。

「実は、俺、姓さんのことが好きなんだ」
「え…?」
「最近、すごく可愛くなったし」
「いや…」
「もし良かったら付き合って欲しい。友達からでも全然いいから」

こんな人気のないところに呼び出されて告白されるなんて漫画みたいなことが起こるんだ。と自分のことと捉えられない不慣れな思考回路が頭を巡る。

「だめかな?」

目の前の彼はこちらの様子を伺っていた。

「あ、いや、えっと…ごめんなさい、彼氏がいるの」
「え?」
「だから付き合えない、です」
「そ、そうなんだ…そっか…うちの学校?」
「えっと…」

返答に困っていたその時、私の後ろから声がした。

「名」
「「え?」」

驚きの声が重なる。
1つは目の前の彼。恐らく突然現れた学校の人気者が私の名前を呼んだことに驚いている。
もう1つは私の声。いつも私を「姓さん」と優しい声で呼ぶ彼が、焦ったような声で私の下の名前を呼んだことに驚いてしまった。

「ごめん。この子、俺の彼女だから。悪いけど諦めて」

口をパクパク動かして驚いている目の前の男の子。

「新開くん」
「行こう」

新開くんの方を向くと私の腕を取りウサギ小屋よりもっと先の奥の方にある倉庫の方まで連れていかれた。

「ごめん」
「え?」
「付き合ってるって言ったら姓さんに迷惑がかかるかもって思ってたんだけど」
「いや…」
「他の奴に好きだって言われてるの見たらつい…ごめん」
「大丈夫」
「姓さんと付き合ってるって言ってもいいか?」
「うん」

返事をすると新開くんに腕を引っ張られ視界が暗くなった。突然のことに頭がフリーズする。どうやら私は今新開くんに抱き締められているようだ。

「姓さん、好きだよ」
「うん、私も」
「できるだけ丁寧にみんなに話すけど、それでももし何かされたり、言われたら言ってくれ」
「ありがとう」
「それから」

新開くんの力が抜け抱きしめていた腕が解かれる。

「名、ってさっきつい呼んじまったんだけど」
「う、うん…」
「これからもそう呼んでいいか?」

ああ、だから神様、私の心臓はそんなに強くできてないんです。

精一杯頭を上下に振ると新開くんは嬉しそうに笑った。

「俺のことも下の名前で呼んで欲しいな」

そう言いながら私の真っ赤になった顔を覗き込む新開くん。

「は、隼人…くん」

満足そうな顔をした彼は私の手を引いて、ウサ吉たちの待つウサギ小屋へ向かった。

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