「もうだめだ疲れた」


登校してきて早々、机に伏せたナマエ。どうしたの、と聞くよりも早くナマエがべらべらと話し始めた。


「いやぁさー、わたし引っ越したじゃん。 家遠すぎ」
「ああ、そういえば引っ越しがどうのって言ってたね」



聞けば親の事情で引っ越したナマエの新居は、それはそれは遠いらしくて。

それまで徒歩で通っていたものも、電車とバスを乗り継いで1時間以上かかるらしい。


「もう頑張れない、学校やめたい」
「だめだよ、やめるのはだめ」
「なんで?」
「折角入ったのに、もったいないよ」
「そんなこと言ったってねえ、」



朝からサラリーマンたちに揉まれてみ?思ったよりも辛いから。とナマエは続けた。

確かにあの満員電車には乗りたくないかも。



「ま、辛さで言ったらバスケ部のが上か」
「違う辛さだけどね」
「君はなんでそんなに頑張れるの?」
「自分が好きでやってるのに、頑張れない方がおかしな話でしょ」
「そう簡単に言うけどさ、実際やりたくないとか思うでしょう?」
「やりたくないとは思わないけど、早く終わってほしいと考えるときはあるよ」



やっぱり鷹山も人間だね、とナマエは電車の時刻表を取り出して眺めた。「明日も5時半起きか」明日の朝のことを考えるには早すぎる気がするが何も言わない。



「鷹山はいつも何時に起きてるの?」
「僕は6時」
「じゃあ対して変わらないんだね」
「そうだね」
「頑張るね、君は努力家だ。 応援してるよ」
「それだよ」
「ん?」


ナマエの頭上に?マークが見える。

僕は、さっきナマエが聞いた頑張れる理由のことなんだけどさ、と付け足した。


「自分のためにやってるけど、応援してくれてる人の期待を裏切りたくはない。 僕の頑張れる理由の一つかな」
「なんか、すごいね」
「そう?簡単なことだよ」
「またまたー」
「本当さ、本当に単純で簡単」



静かにナマエの目を見て微笑んだ。



「ナマエが待ってるから、辛くても学校に来れる。ナマエと一緒に卒業したいから、学校やめずに頑張れる。 僕がナマエの立場だったら、そう言い聞かせて頑張るよ。 どうかな?」



刹那、花みたくナマエが笑った。


「とても良い理由だね、明日からまた頑張れる気がするよ」
「うん、その言葉に僕もまた頑張れる気がする」

12.04.10

mae tsugi