わかってたよ、前から


「それでね、あの子なんて言ったと思う〜?」
「……」


わたしを見てないことなんか


「もうトビ、全然聞いてないっ!」
「聞いちょるよ」


トビはいつも私に嘘をつく、今だって私の話なんか全然聞いてないくせに。


「聞いちょる、聞いちょる」


本当は興味すらないんでしょう?




休み時間。

「あ、やば筆箱忘れてきちゃった」
「えーまた!?ナマエってほんと忘れ物多いよね」


同じ教室で、一番近くに座って、トビの視界に一番多く入る場所にいるのに、トビと目が合うように私はトビの目ばっか見てるのに


「しょうがないなー、私のシャーペン貸してあげるよ」
「アリガトウ助かります」


なんだろう、この別々感。って今に始まったことじゃないのよね


「私なんでこんな忘れ物多いんだろー」
「うける!ナマエがマジで悩んでる!みんな注目ー!」


トビの目に私が映ったことはない、私はいつでもあの子に勝てない









「健二、シャー芯くれ」
「お前また筆箱忘れたんか」
「え、なんで知ってんの?」
「お前のダチの馬鹿でかい声が響き渡っとったわ」
「あはは〜あの子元気だよね」


授業中、トビとミョウジさんの会話を耳にした。お友達に借りていたシャーペンの芯がなくなったらしい。トビが自分の筆箱からシャー芯を取り出してミョウジさんに手渡しする、指先がちょこっと触れるところまでバッチリ見てしまった

トビとミョウジさんは仲良しだ。席は隣同士、イヤでも最後列の席に座っている私には二人のやり取りが丸見えなんだ。あーあ、くじ運ないんだな私


「最近部活はどうなの?」
「おー勝ち越してるわ」
「めっずらしー」
「オマエ…しばくぞ」


ミョウジさんと話している時のトビは楽しそうだ、私と話している時とは比べ物にならないくらい楽しそうだ。そもそもトビは私の話なんか興味がないんだよね、聞いているフリ、右から左に流れてってるのが手に取るようにわかってしまう


「お前はどうなんじゃ」
「なにが?」
「彼氏」
「またその話―?前も話したじゃん、普通だって。そんなに私の彼が気になりますか」


彼女からすれば何も考えないで発言したであろう言葉も、私への当て付けのような感じがしてしまう。嫌がらせ、厭味、わざと私に聞こえるように言ってんだろ


「普通か」
「うん」
「ほーか」
「ほーじゃ」
「真似すんな」
「ぶぶっ、真似すんな」


そんな黒いこと思ってるのは私だけで、ミョウジさんが私を敵対視する理由なんて何もない。もしかしたら彼女は、私の名前すら知らないかもしれない。
ミョウジさんにはれっきとした彼氏がいる。見たことはないけどカッコイイと噂だし、結構長い付き合いらしい。だからねトビ、ミョウジさんを想っても無駄なんだよ。ねえ気づいて


「なに笑っとんじゃお前」
「えーなんか健二って私のこと好きそうだなって思って」
「なっ」


どろどろ、黒い塊が大きくなる


「…っに言っとんじゃお前。自意識過剰オンナ」
「ばーか冗談だよ、なに焦ってんの」

ミョウジさんの笑顔が憎いと思った。あの子さえ、あの子さえいなければ私はトビと…、


「アホ、焦っとらん」
「あらあら的中ですねコレは」
「……」
「……」
「別に、好きでもええじゃろ」
「……」
「……」
「え…?」
「…嘘じゃボケ、仕返ししただけじゃ」
「…びっくりしたー、マジな顔して言うもんだから」
「ワシは演技派なんじゃ」


やめてよ、彼女は私なんだよ。冗談なんかじゃないでしょ、本気でその子が好きなんでしょ私知ってるよトビの事ずっと想ってたから


「そーいうの演技派じゃなくてね、軟派っていうんだよ」
「よく言うわ、ワシが一途なの知っとるじゃろ」
「……」
「……」
「はて、なんのことだか」
「とぼけんな」


やめてよ


mae tsugi