転校生。私が思うに転校生という存在は使い捨てのカイロみたいなもんだと思う。転校してきて数日は持て囃され、友達になろうとか、校舎案内するよとか沢山の言葉をかけられる人気者。だが一ヶ月も経てばあんなに人気を集めていた転校生もアウェイになり、どこのグループにも入れず、路頭に迷うんだ。なにをそんな大袈裟な、と思うかもしれないが転校を幾度となく経験した私が言うのだから間違いない

だけどこの人は…

「ホンマやって!ホンマに乙女座やねんて!」
「ニノが乙女座?似合わない」
「アホ!こんな乙女座っぽい男子どこ探してもおらんで」


二ヶ月前に転校してきた彼、二ノ宮昭人は私が経験してきた転校人生と正反対の人生を送っているみたいだ。それはただ単に転校してない、という意味ではない。転校生なのにその学校に最初から居たような、人の輪の中に途中で入ったようには見えない馴染みようなんだ

彼は私の学校で10回目の転校だと言っていた。孤立しないの?と尋ねたところ「せぇへんよ!バスケやっとるお陰で連れには困ったことないねん!」っておちゃらけならが言った。連れどころか、彼は老若男女問わず色んな人にモテる。特に異性からの人気なんてアイドルか!とつっこみたくなる程に。背が低いのは兎も角として、ルックスも良く性格も明るい上、彼のバスケしてる姿を見れば女の子なんてイチコロだ

そして私も数いる女の子のうちの一人


「たくさん泣かしてきたでしょ?」
「ん?誰を?」
「彼女とか、ニノに好意を持ってた女の子たち」
「え!?なんで俺のせいで乙女が泣くん!?」
「気づいてないの?」
「わからん、わからん」

嘘だね、ニノは多分気付いてる。目をつぶってきたんだろう。行かないで、と縋る女の子に目をつぶって幾度もの引っ越しを繰り返してきたんだろう


「好きな人が遠くに行っちゃうって辛いよね、私もたくさん引っ越ししてきたから分かる」
「なになに!?急に黄昏たりして!俺そーゆう雰囲気苦手やん!」
「はい逃げない、ちゃんと聞いて」
「……」

印象的な垂れ目がこちらに向いた。その顏は喜色帯びていない


「私はこの学校で落ち着いたから、もう転校とかないと思うけど」
「……」
「いつかニノが転校するってなった時、後ろ髪ひかれることないようにしなきゃね」
「……」
「罪な男ですね」
「…なんやそれ」
「え?」

ニノの声色が変わった、少し怖い。普段にこにことしてる人ほど怒ると怖いと聞くし、きっとニノもそのタイプだと密かに思う


「なんで不確定な未来のために、俺とナマエの付き合いが制限されなあかんの?おかしいやろ」
「……」
「嘘っぱちな関係なら要らんで」


吐き捨てるように言ったそれは憤りを含んでいた。怒ってる、ニノが…怒っている。強い眼差しに耐えきれず俯くと上から手が降ってきた


「目の前から大事な人がおらんくなる辛さは尋常やないけど、だからって大事な人を作らんようにするんは間違いやで」


くしゃっと撫でられた手の大きさに胸が高鳴った。ニノは、私がニノのことを想っているのを知ってる。そしてニノが私のこと好きなのも分かってるよ。私たち両想いなんだよ、お互いに言葉にして好きと伝えたことはないけど何となく分かるよ。でもニノはまたすぐ転校しちゃうから付き合ったりしない方がいいよね。だって遠距離なんて耐えられないし、確実に来る別れ話に私はきっと泣くから


ニノの言葉は、私の理解できるモノじゃなかった。不確定な未来?確かに未来は誰にも分からない。ニノは転校しないかもしれない。私だってそう願いたいし、ニノが遠くに行くなんて考えたくもない。でも、


「やっぱり約束のない未来は嫌よ」
「自分わがままやな」
「更にわがままを言うなら何処にも行かないで」
「はは!せやな、何処にも行かんで」
「できない約束しないで」
「どっちなん!?」


ぶは、っと吹き出した彼は徐に小指を出してきた。なに?と聞く私の質問を無視し、いいからいいから!と半ば無理やり指切りの形にさせられて、訳も分からずいると彼はこう言う

「俺もナマエと離れたくないねん!けどもし離れることになってしもうても、必ずナマエのところに帰ってくるって約束するわ!これなら、信じて待ってられるやろ?」


小指にのこる


指切りげんまんし終わったあとのニノは至極嬉しそうな顏をしていた。私もすごく嬉しい気持ちになった

小指にのこる熱は使い捨てカイロみたいな安っぽい温かさなんかじゃなくて、もっとこう…他の何にも変えられないものだった。とても価値を持った熱



mae tsugi