051 (11/11)
長かった夏休みも終盤を迎え、残り3日となった。
今日は夏休み最後の部活で、残りの二日は終わってない宿題やるなり友達と遊ぶなりに使いなさい、と監督がくれた休暇だ。
体育館に着いて早々バッシュを履き、先輩たちが来る前に同級生とモップ掛け、それからボード下ろし。
昨日使ったビブスも畳む。
最初は右も左も分からなかった準備も、5ヶ月経てば要領良く熟せるようになった。
練習できる環境が整い、各自シューティング。
ちらほらと先輩たちが見え始める。その中に依然爽やかなハセガワ先輩がいた。
「お、おはようございますっ」
「おはよ、ナマエちゃん」
柔らかな笑顔。先輩や、私の同級生から人気があるのも納得。
「もう夏休み終わるね。思い出作った?」
「あ、豹と花火やったり、豹の宿題手伝ったりしました」
「あはは!不破らしいな。」
「ハセガワ先輩は、なにかしましたか?」
「ん〜…ナマエちゃんと祭り行ったのが一番かな、楽しかったし」
「…そ、うですか。ありがとうございます」
「こちらこそ」
まっすぐ見つめられれば誰だって照れ臭くなるはず。そう、きっとそう。
先輩の視線から逃げるように俯いた。お腹辺りでバスケットボールを抱えるのは癖だ。茶色い革の粒々が見える。
「また行こうね」
ぽん、と頭に何かが乗った。
反射的に顔を上げれば、口角をあげた先輩。細身な腕が私の方へ伸びている。頭の上におかれているのは先輩の手。
またもや、俯いた。
「…あの」
「なあに?」
「か…からかってるんですか…」
「全然!超まじめだよ!」
「は、はあ…」
すぐに離れていった手に安堵する。
なんだかな、お祭り行った辺りから先輩が変だ。
「おーいハセガワー、シューティングしねーのー」
「ああ、するする」
ステージから違う先輩がハセガワ先輩に声をかけた。二人してステージを見た後、ハセガワ先輩は私へ向き直って「じゃあ、またね」と小声で囁いた。
まだ恥ずかしさが抜けず目が合わせられない。首だけで深くお辞儀すると、もう先輩は歩き出していた。
「なにやってんの」
「ごめんごめん」
ステージ上に立つ先輩の怪訝な表情に、ハセガワ先輩はお決まりの爽やかスマイルを見せた。
ふう、ため息一つ。
聞こえ悪い言い方だが、ハセガワ先輩からの解放で肩の力が抜ける。
別に、嫌いじゃない。先輩のことが嫌いなわけじゃない。むしろ、
「ナマエ〜」
「あ、豹」
「1on1するべさー」
「お腹痛いの治ったの?」
「治った治った!もうばっちり!」
「ちゃんと手洗った…?」
「なしてそんな怖い顔すんのっ、洗ったさ!もちろん!」
腹痛でトイレから戻ってきた豹にボールを渡す。
1on1はいつも豹からオフェンス。構えた。ボールがバウンドして私と豹を一往復。
ぶわっと汗が出る。遠くはない距離から高い声が聞こえた。
「なにあれ、やな感じ」
あっけなく豹に抜かれる。もちろんボールはネットに吸い込まれ。
「なしたー、ナマエも腹イタかい?」
「……あ、ううん。ごめん、普通に反応できなかった」
…………ん?
12.08.05