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土曜日、市大会。
試合前のアップ中、私たちの前に思わぬ人物が現れた。

「いきなりすいませんね。 ワタクシ、こーゆう者でして」

無精ひげを生やしたおじさんだ。いたって普通の見た目。
しかし、そのおじさんが両手で丁寧に差し出した名刺には、名前の横に【記者】と書かれていた。

記者さんの名刺を監督が両手で受け取った。
流れるように自分の名刺を記者さんに渡して、一言。その場にいた誰もが疑問に思うことを聞いた。

「取材、か何かですか?」
「はい。取材です」
「市大会に…取材、ですか? 誰か気になる子でも?」
「何を言うんですか、そんな他人事な。 …他でもない、不破くんの取材に来たんですよ」

その場にいた部員全員が驚いた。

「「「ふ、不破に取材!!?」」」

記者の人が私たちに向き直る。

「中学生のバスケ記事を作ってるんだが、こんなスーパールーキーは初めてだ。一年生にして一試合80得点!もう伝説さ!」

はははっ、と記者さんが笑った。
メッシュキャップをかぶりなおした記者さんに、監督がものすごく申し訳なさそうな顔で「大変申し上げにくいことなんですが…」と紡いだ。

「はい、なんでしょう?」
「不破は…取材とか、そういう類のモノに向いてない気が…」
「あーそこらへんは任せてください。こんなんでも、一応プロです!」
「は、はぁ、そうですか」
「…ところで、彼の姿が見当たらないんですが。 オレンジ頭だと聞いています」
「………すいません」
「はい?」
「不破は……遅刻です」


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「やっべー!寝坊したー!」