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中学生。初めての先輩の存在。

「はいチンタラ歩かない!」

私と豹は嬉しいことに同じクラスで、背の順的にも近くだった。
入学式に出席するため、初対面のクラスメイトたちと背の順二列で長い廊下を歩き進む。
幼く緊張した黒髪少年たちの間にポツン、オレンジが一人。
豹を見やると自分の頭を指さしたあと、他の男子生徒の頭を指さし口パクで何か伝えようとしている。
大方「本当にみんな黒髪だべや〜」といったところだろうか。


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中学校入学直前の春休み、事前にもらった生徒手帳を眺めていると、口から「げっ」なんて変な言葉が出てしまった。

「どしたん?」
「いや、これ…」

[第六条 染髪は認めない]

堅苦しく記載されてた第六条、染髪は認めないって、なんじゃこりゃ。
こんなに厳しいのか、スカートは膝下15センチ、靴下は白、ヘアゴムは黒か紺……第六条に行きつくまでにウンザリするほどの校則が並べられていたのだが、やはり染髪も認められないのか。
ってことは新入生はみんな黒髪ってことか。
もしかして私も黒くしないといけないのかな、なんて自分のブロンドの毛先をいじりながら暫く考え込んだ。

……染髪は、ってことは……私は地毛だから問題ないんじゃないの?
慌てて手帳に目を下ろすと、[第六条 染髪は認めない]の下に小さく記載されている[但し地毛等の例外あり]の文を見て一人安堵した。
ああ、良かった。

しかし今度は、豹が手帳を覗き込み「げっ」と変な声を出した。

「うわ、キビシー!クレイジー!」

そっか、豹のオレンジは染髪だもんな。ガンガン抜いちゃってるし。
ってことは、彼の綺麗なオレンジ色も中学に入るために黒染めしてしまうのか……。
もったいないな、私がプリン直してあげたこともあるから余計残念だな、と思ってたら「え、黒染め?するわけないべ〜」なんて剽軽な返答が返ってきた。
心配する私を他所に、豹はオレンジ髪のまま登校した。


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言うまでもなくオレンジ髪なんて勿論ダメで、やはり豹は入学式が終わった途端、生活指導の先生に連れられていた。(私は豹に腕を掴まれて、一緒に連れられる羽目に。)

「これは本当に地毛ですって!本当!」
「そんな地毛があるかっ!」
「ありますって!あるっつってんだろー!?」
「あるっつってんだろ!?先生に向かって何だその口の聞き方は!?」
「ぎゃーごめんなさいー!」

ガタイMAXな先生と格闘するが勝てるはずもなく、首根っこを掴まれてる豹が可哀想に見えて「先生、豹の髪は地毛ですよ。豹はハーフなんです」とか言ってみたり。
パッと豹を離した先生は「そうなのか?そういえば君もハーフだもんな」と私の頭を撫でた。
なんか私、この先生に気に入られてるみたいだ。

「地毛だという証拠を見せてくれ。小さい頃の写真とか持ってるか?それを見て判断する」
「あ、ありますよ!」

なんとか豹にはオレンジ色でいて欲しくて、生徒指導の先生には申し訳ないけど嘘をついた。
しかし昔の写真を見て地毛か判断する、と言われて私は内心安心した。
豹は私と出会った4歳の頃から、オレンジだから。

「たぶん4歳くらいだと思います」
「……おぉ、確かに今と同じ頭だな。お前ほんとに地毛だったのか?」
「だから言ったべ!?地毛だって!」
「だから言ったべ!?先生に向かってなんだその口の聞き方は!」
「ぎゃー!ごめんなさいー!」

再び首根っこを掴まれて暴れている豹を他所に、先生は私の方へ顔だけ向ける。

「不破の髪が地毛だということは分かった。明日から元気よく登校してきなさい!」
「は、はいっ」
「ぎゃー!先生離してー!」

という経緯で、豹のオレンジ髪が許されることになったのだ。