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夜のうらがわ深いとこ


ゲイリー聞いたか?ジョンの話。
─ Nope.
不幸な事故死だって言われたろ。
でも本当は殺されたらしい
─ No way! who did you ...
bang! bang! ─ !! what the fu**



スクリーンに映る血糊だらけの男を眺める。
突然の銃声に怯え逃げるゲイリー。そして、ジョンが殺されたとゲイリーに告げた男は最初の銃声が脳天を貫通し即死していた。

「つまんない映画」
「ありきたり」

人の少ない平日の夜。演技派が揃った話題作はB級映画だと酷評されたが其れが逆に面白いと映画好きの間では評判で、詰まらなかったと話すカップルも在り来たりだと呟くサラリーマンもその表情には微かに満足そうな色も窺える。

「俳優の演技は最高だってのに」
「でも最後の銃撃戦は良かった」
「確かに、爽快だったかも」

エンドロールも終わり徐々に場内が明るくなる頃、出口を目指してスクリーンの前を通りながら最前列で眠りこけた男を一瞥しながら私は思う。死は詰まらない物であり、面白味なんて無い。そうでしょう?
誇張された銃声や逃げ惑う男達の罵声、バイクの重低音を最前列で浴びながら深い眠りに就く男の肌は嫌に青白かった。面白味なんて、ほら、何も無い。


「── 調子はどう?零」
「うーん。良い感じ」
「気の抜けた返事だね。まあ良いけれど」
「………」
「あ、そうだ。楽しみにしていた映画の感想は?」
「うん。思った通り詰まらなくて期待通りだった」
「相変わらず変わった趣味だ」
「太宰の自殺趣味よりマシだと思うけど。今朝も死ねなくて残念だったね」
「あー!また零が意地悪なこと言う!」
「電話越しに大きい声止めて」


私のターゲットは、さてどんなジャンルの映画が好きだっただろうか。ひょっとすると映画が嫌いな口かもしれない。其れなら申し訳ない事をしたなあ ─ 取引場所にと場所と時間と作品を指定したのは私だった。近頃仕事が立て込んでいて碌に趣味に費やする時間が無かったから、太宰に学んだ悪知恵で仕事と趣味を両立させてみたのである。

まあ、結果的に私が満足したから良しとしよう。

消音器を付けた獲物で二発。取引をするのに最前列に座るものだから呆れたけれど、彼なりの知恵だったのかもと今更ながら気付いてしまった。誰の視界にも入る位置なら死ぬことは無いと思ったようたが、そんなの私相手に叶う訳ない。

遠くからサイレンの音がする。劇場の係員が死んだ男に気付いて通報したのだろう。じゃあそろそろ帰ります、携帯越しに帰宅の報告すれば、太宰が「寄り道しないで帰って来てね」と緩い声色で返してくる。


スクリーンを滑るように走る弾も、顔を真っ赤にして逃げ惑う男達の罵声も、誇張されている点を除けば全てが私の中で面白味のない至極現実的な光景だった。
ポートマフィア構成員、趣味は映画鑑賞、特技は殺し・太宰の話し相手になること・銃・ナイフ、嫌いな事は仕事と提出書類の催促、苦手なものはドッキリ番組と芥川のお化けみたいな異能の姿、最近嬉しかった出来事は中也さんに運転を褒められたこと。それが私が持つ私という人間の情報である。あ、あとエリス嬢が「零とお出掛けしたい!」と駄々っ子になっていたのも可愛くて嬉しい出来事だったなあ。



暗い夜道、もっともっと深い黒。星屑の煌めきなんて存在しない場所、暗くて深くて血の匂いが漂う底。私の生きる場所。






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