Amor con amor se paga3


それ以来、互いによそよそしい態度になって、用がなければ会わなくなった。
日常が忙しいというのは体のいい言い訳だった。
やるべきことなんて見つけるまもなく舞い込んでくるけれど、時間なんて作るものでしかないのに。
流れに身を任せていれば、何も考えずに過ぎ去るだけだ と、立ち止まってみて気づいた。

一緒に生きていけたらいいと思った。
できることなら田舎の片隅で、
トマトを作って毎日シエスタをして暮らせたらよかったのに。

人間(ヒト)が国家(くに)を愛すにはどうしたらいいんだろう。
せめて、期待された未来の上では、トーニョのそばにいられるはずだ と思った。
良い政治家になれば、トーニョがつらいことがなくなるんだ と。
それなら と、私は本格的に政治を学び始めた。
見返してやろうと思って、ひたすら勉強に明け暮れた。

そして気づいた。
"トーニョのために"政治家になるというのは不可能だ。
だって私は彼を愛している。
政治家の決断は多少なりとも彼を苦しめるものだ。
肉を切らせて骨を断つことができなくてはいけないのに、
どちらにしてもトーニョが痛い思いをするなら、私には選べない。

ロマにぃが言っていた。
”国”は、経済が不況だと風邪を引くのだと。
政情が悪いと体調も悪くて、政権争いがあると体が痛いのだと。
国民の意思が彼の意思となり、上司に帰順するのだと。

国に意思が、感情が、痛覚があることを知っていて、
思いやりたいと思っていて、
どうして彼を従わせる立場に立てる?
どうして苦しませる決断を看過できる?

“人”と“国”はどこまでいっても対等にはなれないのだ。
それが友人ではなく、協力でも契約でもなく、博愛でもなく、
ただ一人という特別な愛情を求めたから、なおさらだった。

それに。
いつか私と死別する、それもトーニョにとってはあっという間のことなのだろう。
一緒にいたいというのは私のわがままで、
傷の浅いうちに別れさせようとしたトーニョの優しさも理解できるつもりだった。
私は成長して、変化して、いつか老いるのだから。
彼を追い越してしまいたくないという願いが、破れてしまう前に。

『お別れを言いにきた』と会いに行った日、最後だからと大人のキスをせがんだ。
受け入れてくれたのに、せつなくて涙が出た。
そういう相手に対しては抱きしめ方すら違うのだと知った。
身長はもう、背伸びせず彼の肩に顔を埋められるくらいだった。
最初で最後、女として扱ってもらった。

その日以来、彼らに対する呼び名を改めた。

私は自分の人生に敷かれたレールから少し外れて、経済学を学び直した。
自ら決断ができなくても、少しでも彼の選択肢が増えればいいと思って、
たくさんの専門書を書いた。

人と人のように、国と国のように、愛し愛されることができないのなら、
私は人の身のままこの愛を祖国に還そう。
彼が祝福してくれるのなら、平凡に幸せになるし、
死ぬまで幸せであることが私の意地でもある。

この国に生まれて幸いだと、
あなたのもとで生きて幸福だと、
あなたに愛されて幸せだと、伝えたくて
議事堂で目が合えば、微笑んだ。

この身が朽ちて土に還ったら、彼の血となり全身を巡ろう。



 main 
- ナノ -