《承》二年、桜の散る頃


時は流れるもので、それを留める術を俺は持たない。
いつだって不変を願うのに、この穏やかな日々が永遠に続けばいいと思うのに、無常にもそれは叶わない。
俺は変わらずに、変われずに、変わりたいと思えずにいるのに。
周囲が、大切な人たちが変わってしまうから、俺も変わらざるをえなくなる。
心配させないために、笑って、時には憎まれ口さえ叩いて、送り出す。

高校を卒業すると、彼らは、それぞれの道を歩み始めるだろう。
もう、昼に母校である高校に顔を出すことに意味がない。
せっかく出来た居場所がなくなってしまうという焦燥が胸をえぐった。
こんなにも儚いものだったなんて知らなかった。
不安定な場所に立っていて、いつか失うということをわかっていたはずなのに、信じてはいなかった。

けれど、その切なさをどうやって伝えればよかったのだろう。引き止めてどうする?
別れが切ないのは誰でも同じなのだ。新生活に不安を抱くべきはあいつらの方だろう。
心配させるわけにはいかない。性にも合わない。
励ますべきだ。卒業を祝い、頑張れよと云うしかなかった。
どうしてだろう、あいつらの頭上にある未来は限りなく明るく思えるのに、
同じ時を過ごしてきたはずの、俺の未来には何がある?

苦痛で、夜中に何度も目を覚ました。
いつか忘れられてしまうんじゃないかって。

思われないことを、愛されないことを、仕方ないと受け止めた。
胸が痛んでも、慣れていたから。
大切な人のためなら何をしてもいいと思えるのに、望むならなんでもあげると思えるのに、
自分の欲しいものを口に出すことができないくらい不器用だったのだ。

上手く隠しているつもりでも、気づかないほど鈍い奴らではない。
特にかなではそういうところに敏感で、何度か心配されてしまった。
そのたび無理に笑った。
どうにかしようと対策を考えていたようだけど、原因はどうしようもないことだ。

二年間の縁は浅くはない。卒業しても弁当を作ってやるというあろうに、笑った。
昼に通っていたのは美味いメシのためだけじゃなかったんだぜと忠告したけど、そんなことはわかっていると返された。
「けど、ないよりはいいだろ」って、プロ並の料理の腕前を謙遜するように言った。
ありがたく昼飯権を手に入れて、最初はラッキーだとしか思っていなかったけど、これが思ったよりも俺を救った。
思い出に浸り、大切なことを、幸福を思い出させてくれる時間を手に入れた。
わざわざ毎朝取りに行くことだって苦じゃなかった。
「彼女の手作り?」と聞かれると、笑えて仕方なかったけれど。

相変わらず、大学生活にはそれなりに馴染んでいる。
友人と呼べるのか、話をする相手もだんだん決まってきて、多くなって、可もなく不可もなくだ。
俺の外見が人目を惹くことなんて知っている。
できれば、かなでを惹きつけたかったんだぜ。それ以外はいらないから。

そうしてまた一年が過ぎた。



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