私は極寒の川で溺れて、
否、母に溺れさせられた。
氷の針で全身をくまなく刺され、凍てつき、殴られているようで、
呪う暇もないほど止め処なく絶望が猛威を振るった。
恐ろしさに身を強張らせる力さえもない。
死んだ、と思った。死なないほうがおかしい。
それならいっそ1秒でも早く死んでしまいたかった。
*
*
*
目覚めたら見知らぬ大人たちに囲まれていた。
親しげに話しかけ、名を呼ばれる。
天国にしてはやけに辛気くさい。
そう口に出したら怒られた。痛い。――痛い。
なにかおかしい。
私の背が高いこと。
声が少し低いこと。
窓に映る姿を見てもっと動転した。
私は見知らぬおとなになっていた。
顔つきにも違和感がある。
目の色も髪の色も違う。
どこまで覚えているのかと、彼らは私に問うた。
私は死んだはずだと話す。冷たい、川で。
その話なら聞いたことがあると、ひとりの女性が語り出した。
曰く、
私は冬の川で溺れ、おせっかい焼きに下流で拾われ、
医者に見せられ、肺炎と高熱で2週間寝込んだという。
そのときに髪と目の色素がすっかり抜け落ちたらしい。
目を覚まし、親に望まれていないガキだと判明して、流星街に捨てられたそうだ。
そこで彼らと出会い、それから15年を経たという。
――15年。
私がすべて忘れてしまったのは、
私自身が、"忘れる分だけ強力になる能力"を持っていたからだという。
普段は1週間や1ヶ月、せいぜい1年巻き戻す程度だったのが、
能力の存在さえ忘れるほど、戻ってしまった。
そうしなきゃみんなの危機だったんだって。
わたしはみんなのききをすくったんだって。
彼らは私のことを仲間だという。
私は、あなたたちなんて、知らないのに。
こんなの、まるで別人だ。
パターン3.一度目の死から始める二度目の命
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