三つ目




私は極寒の川で溺れて、
否、母に溺れさせられた。

氷の針で全身をくまなく刺され、凍てつき、殴られているようで、
呪う暇もないほど止め処なく絶望が猛威を振るった。
恐ろしさに身を強張らせる力さえもない。

死んだ、と思った。死なないほうがおかしい。
それならいっそ1秒でも早く死んでしまいたかった。





目覚めたら見知らぬ大人たちに囲まれていた。
親しげに話しかけ、名を呼ばれる。

天国にしてはやけに辛気くさい。
そう口に出したら怒られた。痛い。――痛い。

なにかおかしい。
私の背が高いこと。
声が少し低いこと。

窓に映る姿を見てもっと動転した。

私は見知らぬおとなになっていた。
顔つきにも違和感がある。
目の色も髪の色も違う。

どこまで覚えているのかと、彼らは私に問うた。
私は死んだはずだと話す。冷たい、川で。

その話なら聞いたことがあると、ひとりの女性が語り出した。

曰く、
私は冬の川で溺れ、おせっかい焼きに下流で拾われ、
医者に見せられ、肺炎と高熱で2週間寝込んだという。
そのときに髪と目の色素がすっかり抜け落ちたらしい。

目を覚まし、親に望まれていないガキだと判明して、流星街に捨てられたそうだ。
そこで彼らと出会い、それから15年を経たという。

――15年。

私がすべて忘れてしまったのは、
私自身が、"忘れる分だけ強力になる能力"を持っていたからだという。
普段は1週間や1ヶ月、せいぜい1年巻き戻す程度だったのが、
能力の存在さえ忘れるほど、戻ってしまった。

そうしなきゃみんなの危機だったんだって。
わたしはみんなのききをすくったんだって。

彼らは私のことを仲間だという。
私は、あなたたちなんて、知らないのに。

こんなの、まるで別人だ。



パターン3.一度目の死から始める二度目の命
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