目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。 不意に上がった意識に目を開けば、見知らぬ天井に、見知らぬ匂い。 目だけを動かして周りを観察すると、何やらここは小屋のようで。 自分の置かれた状況を整理する。 「おや、起きましたか」 ふと、聞いた事のある声が聞こえた。 何だろう、と顔を向けると、あの男性がにこやかに笑って隣に立っていた。 「首、痛みますか?」 優しく問いかけると、煤江の首に細い指を走らせた。 つう、と官能的に触れたそれに思わず身をよじると「大丈夫そうですね」と言われる。 「貴女は全く暴れませんね」 近くにあった椅子を引き寄せてそれに腰を下ろすと、まじまじと煤江の顔を見て、そう呟いた。 その言葉に煤江はハッと気がついたように目を見開くと体を起こそうと力を入れる。 体は起きあがるどころか、まるで拘束されているかのように全くびくともしない。 パニックになって動きを止めると、男性はくすくすと笑う。 「悪いようにはしませんから、安心してください。」 随分と余裕のある声に感じた。 煤江は足先を動かそうと力をこめるが、こちらも動かない。 ならばと思い手を動かそうとすると、がしゃりと重たい音が聞こえた。 「・・・手枷?」 「そうです、よく知ってますね」 両手を縛るそれは鈍い光を反射し、じゃらりと長い鎖と繋がっている。 「今は薬が効いているので体が少し痺れているでしょう?あと少しで抜けますから、それまで我慢していてください」 あの時と一寸違わぬ優しい笑顔でそう言った白に、煤江は恐怖した。 かたかたと揺れる口元を優しく撫でると煤江が横たわるベッドから離れて部屋を出た。 「どうしよう・・・」 目に溜まったものですら嫌な感触になる。 煤江は天井を見つめて、ただただ時間がすぎるのを待った。 どれほどの時間が過ぎただろうか。 目が覚めると、部屋の中は暗くなっていた。 寝ぼけ眼で天井を見つめる。 「起きましたか?」 不意に、声をかけられた。 気配すら無かったそれに目を見開いて視線を移すと、くすくすと笑うその人。 薬が抜けたのか体が動かせる事に気がついた煤江は急いで上半身を起こすとベッドの隅に逃げた。 「大丈夫です、何もしません」 気配が遠のき、少しの間が空いて、ぱちんと音がした。 急に訪れた光に目を瞑る。 「今日は再不斬さんは帰ってこないので、気楽にしてください」 ざぶざ、と言われても誰だか分からない。 困惑気味に返事をした煤江はまた天井を仰ぎ見る。 「お腹空いてませんか?」 ふと、煤江の手に手を乗せられる。 急いで顔を向けると、そこにはにこやかに笑った白が居た。 ふるりと顔を横に振ると「そうですか」と言って部屋をあとにした。 「・・・何が目的なの」 白の居なくなった部屋で、一人呟いた言葉は寂しい空間にほろりと溶けていった。 3/6 |