ご機嫌天の邪鬼

「烏間先生と結婚したい・・・」

「な、何言ってるのみょうじ?!」

「け、け、け、結婚!?」


両手で顔を覆って俯く私に、渚くんと茅野ちゃんは露骨に驚いてくれた。最高の反応はすごく嬉しいんだけど、割とガチな願望なんだなこれが。顔を覆いながら、くぐもった声で延々と大好きな烏間先生のカッコいいところをつらつらと喋り続ける。途中から性的すぎたらしく、渚くんに真っ赤になってやめてと言われた。


「どうしたらいい?やっぱり・・・殺せんせーに相談?」

「諦めようっていう選択肢はないの?」

「諦めるくらいなら死んでやる〜!」


机の中から取り出した拳銃をこめかみに当てながらうわーんと泣いてみせる。放課後の教室にはパラパラとしか人がおらず、そんな私の行動に視線を向けるもみんな何だかんだでスルーした。なんでかって?これが日常茶飯事だからだよ。
そして気付いたら、右手に持っていた拳銃はサッと抜かれていて。代わりに、右肩にその弾丸が撃ち込まれた。


「い、痛い!誰!?きっとカルマくんだろうけど!」

「分かってんじゃん」


ふてぶてしい声と赤髪が揺れる。私の顔を覗きこんできたカルマくんが、にやっと挑発的な笑顔を向ける。私は、つーんとあからさまに無視するスタンスで顔を背けた。この人に文句つけたところで、倍返しされるだけだもの。


「つまーんね。どうせやるなら実弾入りのでやりなよ。なんでBB弾なの」

「学校に実弾なんて持ってこれないでしょ」

「冗談だよバーカ。お前に死なれたら俺がつまんねー」


カチャカチャと銃をいじるカルマくんが視線を外して答える。そんなカルマくんに素直じゃないなあと小声で言ってから笑うのは勇気ある渚くんで。茅野ちゃんと、その様子を見ながら笑う。あーあ、こんな恋愛の悩みがなければ楽しいだけの毎日なのになー。そんなこと言ったら殺せんせーにバッテンつけられちゃいそうだけど。


「帰る前に、烏間先生に質問とか言って話しかけてこよ・・・」

「なまえちゃんスゴいなぁ」

「諦めが悪いだけだけどね」

「いや、そうやって諦めずにがっついてくみょうじはかっこいと思うよ」

「でへへ、渚くんよりはかっこいいかもね」


茅野ちゃんの笑顔に笑って答えて、渚くんのフォローに調子に乗って返す。へらりと笑えば自分も少し救われたような気がするから笑顔ってのは楽チンだなあと思う。これが烏間先生の前だとぎこちなくなったり、そもそも笑えなくなったりするんだけど。

さて行くかと立ち上がろうとしたとき。ずっと黙っていたカルマくんが突然私の机の前に立つと、腰を浮かせた私を制するかのように机にダンッと腕を突き、行かせまいとでも言うように私に影を作る。驚いて見上げる私と、驚く渚くんと茅野ちゃんが見える。「か、カルマくん?」不安の見える声で赤髪の奥の目を覗きこむと、真剣な眼差しと目が合った。思わず腰が引ける。


「あんなおっさんじゃなくてさぁ、俺にすればいいんじゃない?」

「・・・えっ?」

「2度は言わない。さっさと帰り支度しなよ」


茅野ちゃんが真っ赤になって隣の渚くんの背中をひっぱたく。それだけじゃなく、机を叩いた大音とそれからの一連の流れは全部残っていた生徒に聞かれていたわけで。混乱するだけの私に、カルマくんが強引にカバンを押し付ける。それを抱きかかえた私の腕を取ると、そのまま教室を飛び出した。職員室とは正反対の正面玄関に進む私とカルマくんの足。

これからどうなるんだろうと、もつれる足でカルマくんに引っ張られるしかなかった。


150115
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