13-1









聴こえた。
音が。


ピアノの音。


力強くて、ひとつひとつはっきりとした音。
確かな技術力を感じさせる音。


けれど、その音は憂いや迷いを秘めていて。
それが一層その曲の物悲しさを引き出していて。

華やかな所も、なぜかどこかメランコリックだった。



「ショパンのバラード、1番…」



導かれるようにしてたどり着いた音楽室の窓の向こう。
ピアノに指を走らせる人の横顔を見て、ふと先日のことを思い出した。


僕を見て知らない人の名前を呟いた彼女。
普通科からコンクールに参加する麻宮先輩。


一心にピアノに向かう先輩の瞳は伏せられていて、けれど泣いているように見えた。
時折何かを振り払うように、頭を振る先輩。
何が彼女を追い立てているのだろうか。



誰もいない音楽室の外。
十分弱に渡るその曲を聴きながら、僕は鼻の奥がツンとするのを感じた。








- 72 -


≪PREV NEXT≫


72/77


[top]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -