「花見??」
特別教室棟と音楽科棟をつなぐ渡り廊下に、不思議そうな声が響く。
「そ、花見。いやー、うっかりうっかり。」
「……なにがうっかりなんですか?そして、脈絡なく「花見」とか言い出すのやめてください。わけわかりません。」
脈絡はある。あるぞ。
あくまで、俺の中で。
自己紹介の時漂っていた実に微妙な雰囲気がいたたまれなかったとか、「時間の無駄」とでも言いそうなギスギスした空気を作り出す奴をどうにかしようとか、今年は花見をする前に桜が散っちまいそうでうっかりしてたとか。
先生は先生なりに色々考えてるんです。
ほら、脈絡あるだろう?
そこ、最後が本音だろとか言わない。
「だーかーらー。放課後5時半、音楽科棟校舎裏に集合な。時間厳守。以上。」
くるりと麻宮に背を向け、「ちなみに、コンクール参加者は絶対参加だからなー」と、ひらひらと手をふりながら捨てゼリフよろしく相手の顔も見ずに告げる。
麻宮の戸惑った雰囲気を背中に感じながら、つい先日にあった自己紹介の様子を思い浮かべた。
「ピアノ、ねぇ…」
そう呟いた声は、昼休みの喧騒に消えていった。
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