私を呼ぶ香穂ちゃんの声で、私の意識は急に現実へと引き戻された。
慌て周囲を見回すと、皆の視線がこちらに向いていた。
その中に少し心配そうな表情を見つけて、少し申し訳ない気持ちになった。
彼を、志水くんを見ると、否応なしに心にしまってあったものを思い出してしまう。
廊下で初めて見たときも、そしてここで自己紹介をするのを見ていたときも。
だって、あまりにも似ているから。
「ほれ、お前さんの番。」
金澤先生の声で、自己紹介の順番が自分に回ってきていたのを悟った。
冬海さんと香穂ちゃんの自己紹介、全く聞いてなかった……。
私は小さく頭を振ると、さっきまで考えていたことを頭の隅へと追いやる。
真っ直ぐ前を向くと、そこにいる人と一人ずつ目を合わせながら自己紹介を始めた。
「普通科2年2組、麻宮花梨です。」
一通り目を合わせると、少し視線を落として続ける。
心配そうな蓮くんの視線から逃げるように。
「楽器は、……ピアノです。」
だから、私は気づかなかった。
訝しげな視線が私に向けられていたことに。
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