09-1









掲示板の前にはたくさんの人。
掲示された名前に各々が思い思いのことを口にしている。



「おめでとう、月森君!」
「やっぱり、すごいね!」



わざわざ確認にいかなくとも、かけられる言葉で自分がコンクール参加者に選ばれたことを察することができた。

なにがめでたいのか。
なにがすごいのか。

そこに存在するのは、ただコンクールに参加するという事実だけ。
それに対して口々に賞賛の言葉を述べていく同級生に多少の苛つきを覚えたとき、掲示板の前の人だかりのざわめきが一層大きくなった。



「おい、普通科のやつが選ばれてるぞ。」
「一体誰だよ、音楽科を差し置いて選ばれるなんて。」
「麻宮花梨と日野香穂子だとよ。」



彼らの口からよく知った人物の名前が聞こえ、それまで確認しようとも思わなかった掲示へ駆け寄る。



「本当だ…。」



彼女はこのコンクール参加の話を受けるのだろうか。

彼女がこちらに来てから、楽器に触れたところを一度も見ていない。
そんな彼女がコンクールという舞台に立つことなどできるのだろうか。

そこまで考えて、俺は頭を振る。

いくら俺が他人のことを心配したところで、意味をなさない。


決めるのは彼女自身なのだから。








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