「……、花梨。起きろ、夕食だ。」
おもむろに体を揺り動かされ、慌てて跳ね起きる。
目をこすりながら外を見やると、もうすでに日は落ちきっていて、街灯がぽつぽつと仄暗い夜道に浮かび上がっていた。
「起きたか。もう、夕食の時間だ。」
声のした方向に目を向けると、薄暗い部屋の中にぼんやりと人の姿が見えた。
「………蓮、くん。」
「…着替えたら降りよう。部屋の外で待っているから。」
自分の姿を鏡に映すと、そこにはまだ制服を着たままの私がいた。
どうやら、あのまま眠ってしまったようだ。
「…うん、すぐ着替える。」
私の言葉に蓮くんは頷くと、私の頭をぽんぽんと撫でてから、部屋を出て行った。
蓮くんを見送ってから、私は再び自分の姿を鏡に映す。
「泣いて………いたの?」
微かに残る涙の跡をなぞって、愕然とする。
記憶にはない、しかし泣いていたという確固たる証拠。
なぜ、私は涙を流したのだろう。
「……いけない、蓮くんを待たせてるんだった。」
深みにはまり始めた思考回路を、無理矢理引きあげて手早く着替えると、私は真っ暗な部屋をあとにした。
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