04-5





食事の片付けも済んだあと、自室にいると音が聞こえてきた。


蓮くんが練習を再開させたようだ。

私は読んでいた本から部屋の隅に置かれた黒いケースへと目を移す。



もう何年、この子と対話していないのだろう…。



甘い、甘い音。
なめらかな曲線を抱いた形。
優しく奏でると穏やかな音色で答えてくれる。
ときに激しく、ときに切なく、そしてときに愛しさをこめて。
いろんな想いをのせて弾いてきたこのバイオリン。



ケースを開け、バイオリンを見つめる。



本当は弾きたい。

私はバイオリンを愛しているから。


恐る恐る手を伸ばし、触れてみる。



「うっ……!!」



襲ってくる、とてつもない吐き気とめまい。
バイオリンに触れようとするといつもこうなる。
ニコルとの思い出がフラッシュバックしてくる。
楽しかったことも、悲しかったことも。
そして最後は、あの病室の光景が目に浮かぶのだ。


手を伸ばせば触れられる場所にあるのに、こんなにも遠い…



「弾きたい………弾きたいよぉ…」



私はその場でうずくまり、静かに涙を流し続けた。








- 23 -


≪PREV NEXT≫


23/77


[top]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -