02-1
ほんの気まぐれだった。
音楽科棟なんて、めったなことがなきゃ寄りつかない。
いろんな音色を聞くと、彼と似た音を探し始めてしまうから。
だから、あまり寄りつかないようにしていた。
今お世話になっているおうちは音楽家一家。
家にいても、学校にいても、私の周囲には音楽がある。
いうなれば、今私が身をおいている状況は、日常と音楽が限りなく密接している状態。
そんな状況にいても、私はあれ以来バイオリンに触れないでいる。
音楽には触れていたい。
今となっては、それが私と彼を結びつける唯一の絆だから。
一時期ピアノにもさわれないこともあっけれど、彼の遺してくれた楽譜を手にしたとき、どうしても弾いてみたい、彼の想いに触れたいと感じた。
それ以来ピアノだけは毎日欠かさず弾いている。
ただバイオリンだけは別だった。
ケースを開け、触れようとするだけで、私の中のいろんな想いがぐちゃぐちゃと絡まり合って渦を巻き、出口を求めて体の中を駆け巡る。
そんな想いをうまくコントロールする術を知らない私は、バイオリンに触れないことで自分を守っていたのだ。
そしてもう一つ、私がバイオリンを奏でられないでいる理由がある。
それはいつも2人で音を奏で始めるときまって姿を表すアノ子が、あの日を境に見ることができなくなったこと。
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