王の知る彼女の名前がない理由
エナ「どうしたの?シンバ。急に呼んだりなんかして」
シンドバッド「お前に、王として命令がある」
料理人であるエナがシンドバッドの部屋に入る事は、料理のリクエストやらかまってほしいやらで呼び出され多々ある。
シンドバッド「お前にしか頼めない、久しぶりの任務だ」
だが、”王としての命令”その言葉がシンドバッドの口から出された時。彼女は己の気を引き締め、跪いて首を垂れるのだ。
エナ「はい、王様」
*
ミラノ「なあ、ダミアーノさん」
ダミアーノ「何だ?」
同刻。ある料理人2人が厨房で名簿を見ていた。
ミラノ「エナさんの名前は、なぜ載ってないのですか?」
ダミアーノ「それ、長くいる俺にも分からねえんだ。あの人、たまに城から姿消すしな」
ミラノ「訳ありですかね」
ダミアーノ「さあな」
エナの謎は、2人の中で深まるだけだった。
*
シンドバッド「近いうちにバルバッドへ行く。そこでエナには、先に偵察に向かってもらう」
エナ「出発はいつになさいますか?」
シンドバッド「そうだ、な、出来るだけ早く」
エナ「では、明日の朝に」
シンドバッド「助かるよ、エナ」
エナ「いえ。では、私はこれで」
シンドバッド「待て、エナ」
エナ「はい?」
シンドバッド「友達であるお前に、頼みがある!」
エナ「なぁに、シンバ」
シンドバッド「当分城を空けるのだから、エナの手料理を食べさせてくれ!」
エナ「いいよー、何がいい?」
シンドバッド「じゃあ、小さい頃ルルムに教えて貰っていたオムライスが良いな!」
エナ「あーあれか、分かったよ。今日のお昼に出すから待っててね」
シンドバッド「あ、まだある。エナ」
エナ「なぁに?もう、何回呼び止めるのよ」
シンドバッド「俺は、お前をこの仕事に就かせた事を、後悔してない」
エナ「私もよ」
シンドバッド「だが、城に名前を残す事くらいはして欲しいと思ってる」
エナ「っ、」
シンドバッド「皆やエナが力になってくれたから、俺はこの国を興せた」
エナ「シンバ…」
シンドバッド「料理人としてでも良い。やっぱり、名前を残さないか」
エナ「料理人として名前を残すほど私は上手くないしサボりすぎだし、私にはいらないよ」
シンドバッド「エナ、自分の部屋も用意されて無いだろう!」
エナ「いや、大丈夫だよ。ジャーファルと同じ部屋を使わせてもらってるし」
シンドバッド「俺は寂しい!!!」
エナ「シンバ!寂しいとかじゃ無い!」
シンドバッド「うっ、」
エナ「私が望んだ事だから。良いんだよ。
私の名前を、この汚れ仕事を、公にしちゃダメ。
平和な国、シンドリアの皆の不安を作っちゃダメ」
シンドバッド「だが、国のための仕事なら、公にしても、」
エナ「だからいいって。私の心配はいいから。
あの時、言ったでしょ?」
シンドバッド「…ああ、そうだったな」
エナ「王は王らしく。陽の当たるところで、皆の中心で…笑っていればいいのよ」
シンドバッド「すまなかった」
エナ「任務に失敗することなんてあり得ないから、必ず貴方のところへ帰ってくるよ」
シンドバッド「…今日はジャーファルにいっぱい抱いてもらえよ」
エナ「やだなぁ、当たり前じゃんー、でもカッコつけて言うセリフじゃないでしょ」
シンドバッド「さっ、気を取り直して!エナ、頼むぞ!」
エナ「任せてよ!」
*
「シンドバッドが王様になるなら、私はそれを陰から守る」
「はは、エナは陰の王様か」
「影に王様なんて階級はない、陰は陰でしかないよ」
「そんな悲しいこと言うなよ」
「ううん、これがシンドバッド、貴方に助けてもらった私からの恩返しだと思って」
「…わかった」
28.3.24
幼き日に契るシンドバッドさま