王の知る彼女の名前がない理由

エナ「どうしたの?シンバ。急に呼んだりなんかして」

シンドバッド「お前に、王として命令がある」


料理人であるエナがシンドバッドの部屋に入る事は、料理のリクエストやらかまってほしいやらで呼び出され多々ある。

シンドバッド「お前にしか頼めない、久しぶりの任務だ」

だが、”王としての命令”その言葉がシンドバッドの口から出された時。彼女は己の気を引き締め、跪いて首を垂れるのだ。

エナ「はい、王様」



ミラノ「なあ、ダミアーノさん」

ダミアーノ「何だ?」

同刻。ある料理人2人が厨房で名簿を見ていた。

ミラノ「エナさんの名前は、なぜ載ってないのですか?」

ダミアーノ「それ、長くいる俺にも分からねえんだ。あの人、たまに城から姿消すしな」

ミラノ「訳ありですかね」

ダミアーノ「さあな」

エナの謎は、2人の中で深まるだけだった。




シンドバッド「近いうちにバルバッドへ行く。そこでエナには、先に偵察に向かってもらう」

エナ「出発はいつになさいますか?」

シンドバッド「そうだ、な、出来るだけ早く」

エナ「では、明日の朝に」

シンドバッド「助かるよ、エナ」

エナ「いえ。では、私はこれで」

シンドバッド「待て、エナ」

エナ「はい?」

シンドバッド「友達であるお前に、頼みがある!」

エナ「なぁに、シンバ」

シンドバッド「当分城を空けるのだから、エナの手料理を食べさせてくれ!」

エナ「いいよー、何がいい?」

シンドバッド「じゃあ、小さい頃ルルムに教えて貰っていたオムライスが良いな!」

エナ「あーあれか、分かったよ。今日のお昼に出すから待っててね」

シンドバッド「あ、まだある。エナ」

エナ「なぁに?もう、何回呼び止めるのよ」

シンドバッド「俺は、お前をこの仕事に就かせた事を、後悔してない」

エナ「私もよ」

シンドバッド「だが、城に名前を残す事くらいはして欲しいと思ってる」

エナ「っ、」

シンドバッド「皆やエナが力になってくれたから、俺はこの国を興せた」

エナ「シンバ…」

シンドバッド「料理人としてでも良い。やっぱり、名前を残さないか」

エナ「料理人として名前を残すほど私は上手くないしサボりすぎだし、私にはいらないよ」

シンドバッド「エナ、自分の部屋も用意されて無いだろう!」

エナ「いや、大丈夫だよ。ジャーファルと同じ部屋を使わせてもらってるし」

シンドバッド「俺は寂しい!!!」

エナ「シンバ!寂しいとかじゃ無い!」

シンドバッド「うっ、」

エナ「私が望んだ事だから。良いんだよ。
私の名前を、この汚れ仕事を、公にしちゃダメ。
平和な国、シンドリアの皆の不安を作っちゃダメ」

シンドバッド「だが、国のための仕事なら、公にしても、」

エナ「だからいいって。私の心配はいいから。
あの時、言ったでしょ?」

シンドバッド「…ああ、そうだったな」

エナ「王は王らしく。陽の当たるところで、皆の中心で…笑っていればいいのよ」

シンドバッド「すまなかった」

エナ「任務に失敗することなんてあり得ないから、必ず貴方のところへ帰ってくるよ」

シンドバッド「…今日はジャーファルにいっぱい抱いてもらえよ」

エナ「やだなぁ、当たり前じゃんー、でもカッコつけて言うセリフじゃないでしょ」

シンドバッド「さっ、気を取り直して!エナ、頼むぞ!」

エナ「任せてよ!」







「シンドバッドが王様になるなら、私はそれを陰から守る」

「はは、エナは陰の王様か」

「影に王様なんて階級はない、陰は陰でしかないよ」

「そんな悲しいこと言うなよ」

「ううん、これがシンドバッド、貴方に助けてもらった私からの恩返しだと思って」

「…わかった」

28.3.24
幼き日に契るシンドバッドさま
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