消毒は甘いキス

シンドバッド「お前らにはもう一つ道が残されている。…欠けているものを補う事。すなわち、この俺を霧の団の仲間にすることだ!」

ジャーファル「ええ?シン、貴方が霧の団に?」

シンドバッド「ああ」

ジャーファル「それで戦う?」

シンドバッド「ああ」

ジャーファル「バルバッド国と?」

シンドバッド「ああ!」

ジャーファル「はああ、それはおかしい!霧の団は倒すべき敵です!何の為にエナ達を任務にあたらせたと思ってるんですか!貿易再開の為にアブマド王と約束したではありませんか!」

シンドバッド「だが、俺は霧の団に味方したくなったのだ」

ジャーファル「アンタ!言ってること変わってますよ!自分で決めたとか、カッコいいこと言ってたじゃないですか!」

シンドバッド「ジャーファル君…お前は何て冷酷な男なんだ!」

ジャーファル「え、ええ!?」

シンドバッド「お前も知ったろ、この国の惨状を!それでもなお!お前の心は動かなかったというのかぁ!」

ジャーファル「そりゃ、確かに酷いとは思いましたが、」

シンドバッド「だーろ!だから俺は思ったのだ、あのバカ王よりも、スラムで必死に戦うこいつらの力になりたいと。俺は、霧の団と共に戦うぞ!
と言うわけで、入団を認めてくれるかな?アリババ君」

アリババ「悪いけど、それを信じるほど俺はもう甘くねえつもりなんだ」

シンドバッド「そうだな、他にも理由があるとすれば、それは、世界の異変を止めるためだ。
君たちは感じないか?近年、戦争が頻発し、貧困や差別は拡大し、世界は混乱に満ち満ちていると。
俺はシンドリア王として、この状況を憂いている。だから、世界異変の一つであるこのバルバッドの内乱を解決したいと思っている。それで、どうだろうか?」

カシム「騙されんな!国王のくせに何が俺達の仲間だ!てめえら上の人間は、俺達みてえな汚ねえ下の人間が飢えて死のうがいいと思ってんだろ!自分達が贅沢に暮らすためならよお、違うか!ええ?シンドバッドさんよお!」

ジャーファル「黙れ」

ジャーファルはカシムの首に凶器の先をあてがう。

カシム「はっ、…」

ジャーファル「シンがどれ程の傷を負い、自分を犠牲にして生きてきたか…知りもしない野党ごときが
エナをも傷つけ、ただで済むと思うな」

アラジン「ジャーファルお兄さんは実は怖い人なんだね」

マスルール「まあ時々。エナさんが絡むと色んな意味で」

シンドバッド「やめろ、ジャーファル」

ジャーファル「すみません」

シンドバッド「ああ」

アリババ「わかった、もう止めてくれ」

シンドバッド「じゃあ、仲間にしてくれるんだな?ありがとう」



ジャーファル「聞いて下さいよ、エナ。そんな事があったのですよ?
シンったら…身勝手だと思いません?」

エナ「そうかもね」

ジャーファル「けれど…貴女が目覚めて本当良かった。心配しました」

エナ「ありがとう」

ジャーファル「どういたしまして」

エナ「私なんかの事もかばってくれたんでしょ?」

ジャーファル「ああ、それはエナの努力が無駄になるのが嫌だったんですよ」

エナ「努力?したっけ?嘘言って組織に潜り込んだだけだよ」

ジャーファル「いいえ、エナは考えて動いている。今回スパダを残して行ったのも、貴女なりの配慮でしょう」

エナ「ううん、適材適所だよ」

ジャーファル「スパダはカシムに怒り狂ってましたよ。懐かしいですね、スパダがシンドリア商会に入ると決まった時、貴女の事を護ると言っていたのが」



スパダ「俺は、エナ様を傷付ける奴を1人残らず殺すためにここに入りました。
一生かけてエナ様に恩を返し、護りお使えするつもりです。

エナ様と恋仲にあるジャーファルさんと言えど、エナ様に不快な思いをさせるようなら、俺が(*)娶らせていただきます」

(*)妻として迎える



ジャーファル「あの頃のスパダは重かったですね、エナが毎日のように敬語を止めるよう言ってて。見てて面白かった」

エナ「そうだね、今はすっかり、頭を叩いてツッコミするまで成長してしまって」

ジャーファル「エナ、精神年齢も抜かされましたしね」

エナ「気付いたらスパダの方が足は速くなってるしね」

ジャーファル「それにしても腱鞘炎はやり過ぎですよ」

エナ「そうかな?名案だと思ったんだけど」

ジャーファル「ふふ、名案ですか」

エナ「そうだ!ジャーファル、消毒して?」

エナは何か良いことでも思いついたかのように笑顔で、ジャーファルの左頬を自分の右手で包んだ。

ジャーファル「消毒?血清はもう打ちましたよ?」

エナ「この鈍感、わかってるでしょ」

ジャーファル「へ?」

エナ「ここ」

ジャーファル「はぁ、カシムですか」

エナ「こっちの消毒はまだでしょ?」

ジャーファル「いいえ、しましたよ。貴女が寝ている間に」

エナ「は?」

ジャーファル「全く、恋人のキスで目覚めないなんて…鈍感はどっちですか」

エナ「うっ、私の記憶の中ではまだだよ!」

ジャーファル「しっかたないですねえ」

エナ「愛してる!」

ジャーファル「…バカ」

エナ「んっ」

ジャーファルが顔を近づけると、エナも少し起き上がって距離を近づけてくる。

できるだけゆっくり、ゆっくりと、寝起きで少し渇いたエナの唇を自分の舌で濡らしていく。

エナ「ごめ、唇ぱさぱさでしょ」

ジャーファル「大丈夫」

エナの後ろの髪を優しく撫で、角度を少し変えて口内に舌をさしこむ。

こんなに余裕のなさそうな顔をしているのに、舌だけは応えるように自分に従ったり、積極的に絡んだりしてくる。

ちゅっ、と音を立てて離れたエナの唇は、さっきとは違う。潤ってぷるんとしていた。
エナの分かりやすく紅潮した頬、おっとりした瞳、いつの間にか首に回されていた手に可愛さを覚えて、近づいてまた唇を重ねた。



ジャーファル「まだ、寝てた方がいいですかね」

エナ「あれだけキスしておいてよく言うよ」

ジャーファル「寝なさい」

エナ「ジャーファルと寝たいな」

ジャーファル「シンドリアに帰るまでお預けですよ」

エナ「えー、まあ仕方ないか。任務失敗した身だし。添い寝で我慢します」

ジャーファル「添い寝は今夜にしましょう。エナ、今任務に失敗って言いました?」

エナ「うん」

ジャーファル「何を言ってるのです?シンは大成功だと言ってましたよ?
早くからのバルバッド国の情勢の把握、霧の団の内部情報、そして協力。こうして味方すべき組織を見定めることができたのは密偵部隊のおかげだと。
そして、この地での密偵の仕事は終わり。スパダとアルコはもう次の仕事へ移ってますよ」

エナ「私、置いてかれてる!」

ジャーファル「あーこら。動くな」

エナ「スパダとアルコと仕事したいよ!」

ジャーファル「スパダとアルコはシンに任された別の仕事をしに、先にシンドリアへと帰りましたよ。エナには、まだここで働いてもらいますから」

エナ「ええ!帰ったの!?」

ジャーファル「はい」

エナ「…スパダとアルコとエウメラ鯛食べる約束してたのに」

ジャーファル「エナ、こんな事で泣かないの。私が代わりにその相手をしてあげますよ」

エナ「ぐす、スパダとアルコと食べたい」

ジャーファル「エナ!いい加減にして下さい!」

エナ「ひっ」

ジャーファルはエナを押し倒し顔を近づけ、彼女の右手首を優しく掴んだ。

ジャーファル「ひと月ぶりに会って、毒に倒れて、どれだけ心配したと思ってるんですか!どれだけエナを我慢したと思ってるんですか!
少しは可愛くなったかと期待してたのに、全く変わらない…」

エナ「そんなこと言わないで、ジャーファルには食べられたい派なの」

ジャーファル「もう!予想より遥かに可愛くなってるじゃないですか!怒りますよ!」

エナ「アンタさっきと言ってること変わってますよ」

28.3.29
スパダはカシムに怒り狂ってましたよとか言ったけど実はそれより怒り狂ってたジャーファルさん
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