ふしあわせはむかし
「_____羨望の目」
「痛いところを突くな骸!
パパそんな技 教えた覚えありません!」
「視界にあるもの全部救おうだなんて。バカ」
「骸の方がバカ」
「__じゃあ あなたのことは誰が助けるの。バカ」
「そんなの求めてないよ。
見てしまったからには放っておけない、それだけだ。バカ」
「それ、いつか自分の身を滅ぼすことになる」
「構わないよ」
「___いつまでもそこで突っ立って 指 咥えて見てればいい」
「こら骸!いつそんな言葉覚えたの!」
「生まれる前から」
「お前、さては口から生まれたな」
「アンタは腹から産まれたみたいね。
真っ黒な腹が一物抱えて苦しんでるわよ」
「無駄に言葉の使い回しが上手いから困った、全くお前は」
「自分に素直になれば良いものを、全くお前は」
「ちょ、さっきからバカとかお前とか。私が先輩だからな。
天に仕えている以上、私達に自由はない」
「天にお捧げした身だから、でしょ。
あなた、仕事に取り憑かれてるんじゃないの。
少しは自分の殺りたいようにやればいいじゃない、
透」
「_____。
骸が物騒な漢字変換をやめたら私も好きにやるさ」
私が幼い頃、透に連れ出され歩いた町は優雅でも、騒がしくも無かった。
長閑な片田舎。
松の木に向けて建つ寺子屋。
透は、いつもその前で立ち止まっては見ていた。
ただ、羨ましそうに見ていた。
「貴様、ここで何をしている」
「寺で待つよう言われたの。
私達、お母さんの帰りを待ってるの」
戦争が終わっても、私達は廃墟の寺で親の帰りをただ待っていた。
子供達の中では私が一番年長だった。
腹が減ったと駄々を捏ねる子がいれば私は食べ物を譲った。
夜泣きが酷い子がいれば夜通し面倒を見た。
そんな日々を繰り返すうちに、私の身体は限界まで追い詰められた。
私には分かっていた。
私達は待っていても無駄なことを。
私達が待つ者は誰も帰ってこないことを。
「残念だけど 君達のお母さんはもう、帰らないよ」
「お前!ふざけんな!」
「絶対帰ってくるって!言ってたもん!」
私達に石を投げられても、透はただそこに立っていた。
「私は君達の為に何も出来ない。
ただ、君達を殺しお母さんに会わせてあげることならできるだろう」
30.3.16
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