花を待ち、香りを運び、あなたは来ない
戦争が終わり行き場のない私達を、
透はすべて拾い奈落へ連れ帰った。
まるで過去の虚様みたいだ、と透の付き人が内緒で教えてくれた。
「随分な大家族だな」
「透様、一体あんな子供どこで」
「ああそれは、先の戦争の孤児と言われているらしい」
「まるでビックダディじゃないか」
「見ろよ。炊事に洗濯、おんぶにだっこに乳母車、確かに大変そうだな」
「___骸。あの者達を黙らせて来なさい」
「一枚おろしですか、それとも三枚おろしですか」
「おろすな骸。魚じゃないから。 あの者達 一応仲間だから」
一緒に三度目の冬を越え、透が成人した。
次期 首領候補だった透の付き人には私が選ばれた。
「___何か私にお手伝い出来ることはありますでしょうか」
「二月は私の母の命日なんだ。
墓参りに丁度いい花を調達してくれないか」
「透様。マーガレットでございます」
「少女漫画を頼んだ覚えはないんだけど」
「透様、確かにあの時 花をと」
「花とは言ったけれども」
「生前のお母様も 若かりし頃は」
「買い直しだバカ」
「お母様はどんな方だったの」
「こらこら。急にオフモードか。
やめなよ。どこで誰が聞いてるか分からないんだ」
「透は皆の憧れだものね」
「そんなつまらないことを気にするたちだったか、君は」
「少なくとも、あなたの下につく私を妬む者がいる」
「___そうか。
お前は強い子だよ」
「どうして?」
「私は弱い小僧だったからさ」
「母とは早くに死別したが、私は長いこと父の背中を追い続けていた。
父の背中が越したかったからではない。
父の優しさに 甘えたかったからだ」
「お父さんはもういないの?」
「ああ。追うのはもうやめたよ。
_______どこかで元気で居るといい」
30.3.16
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