トスを呼んでくれ!エース!

「町内会と試合なんて、アップにもなりゃせんよ!なはははは!」

「やめろ陽!失礼だぞ!それにケガ明けなんだから大口たたくな!」

はしゃぐ北来に、鎮める菅原。

日向翔陽は、静かにその様子を眺めていた。
先日、天才セッター影山飛雄との速攻を青葉城西に決めた彼。
彼は今、コートに立っていた。
北来陽と同じコートに。対等に。
ずっとソワソワしている彼の様子に、影山がいち早く気付く。

「ど、どうした日向。陽さんが同じコートにいるから緊張してんのか?

確かにこの身長だから存在感あるし、有名な人だし、何よりお前と同じポジションなのは分かるけ

「サロンパスの匂い!!!!!」

「あ!?」

「サロンパス!サロンパス貼ってますか!?」
「・・・?あ、チビ!この前も会ったな!
サロンパスな!貼ってるよ!見ろ!ハの字ばり!」
「うぉぉぉおおお!興奮する!」
「いえい!俺たち仲良くなれそうだ!」
「身長!身長何センチですか?!」
「195だぜ!」
「かっけぇぇぇえ!」
「え?何何!もっかい言ってみ!?」
「かっけぇっす!先輩!」
「おまっ!そんな煽て乗らないからなぁ!

まぁいいだろう!今度サロンパス奢ってやる!なんつったって俺はセンパイだからな!」

「双子じゃないかってくらい、陽は西谷だな」

な、スガ?と大地が呆れて言う。まあ、似てるよね。
陽はそのデカイ図体で深呼吸して、おおおお!と叫ぶ。乗って西谷と田中も雄叫び。

「本当にお前ら、ジャングルの仲間達だよなぁ」

「いつもの景色だ!ヒャッハーー!!嬉しいいいいい!」

「ちょ、ケガ明けなんだから暴れんなって!」
「あざす!いつもの景色あざす!」
「こら、大地が怒るよ」
「いいじゃないすか!1ヶ月もこの瞬間を待ってたんだから!!」

何が楽しいのか手足をわちゃわちゃさせる身長195cmの巨漢。影山は遠目に彼を見ていた。
あれだけ身長があったら、きっとブロックもスパイクも一番。頂からの眺めは最高なんだろう。

「北来。お前ポジションは」
「ミドルブロッカーっす!」
「ウイングスパイカーやれ」
「いいんすか!!」
「ああ、烏野チームな」
「いよっしゃぁぁああ!田中ぁぁあ!」
「らっしゃぁぁあ!」
「陽!初めバックライトな!」

烏野高校/烏野町内会+@ ↓サーブ順
BR 北来 WS/嶋田 WS(バックライト)
FR 澤村 WS/内澤 WS(フロントライト)
FC 日向 MB/滝ノ上 MB(フロントセンター)
FL 田中 WS/東峰 WS(フロントレフト)
BL 影山 S/菅原 S(バックレフト)
BC 月島 MB/森 MB(西谷 L)(バックセンター)


陽のサーブから試合が始まったゲームはスムースに展開され、菅原にボールが回ってきた。
菅原のトスを受けたMB滝ノ上の速攻が決まると、日向は目をキラキラさせた。
「菅原さんの速攻・・・!!」
「スガだって歴としたセッターだからな!」

「嬉しそうだな、大地さん」
「ああ。俺らも次決めんべ」
「おう!」

「さっこぉいいい!旭さぁぁああん!」

「旭ナイッサー!」「旭さんナイッサー!!」
アイツらが、俺のサーブを待ってる。
大声で俺の名前を呼ぶ田中と陽が。なんか、懐かしいな。あのギラギラした目。同じコートにいたら、頼もしいだろうな。
西谷の頼もしさは相変わらずだ。
スガも、ちょっと見ない間に頼もしくなった。

なのに俺は、フラフラ戻ってきて成り行きだけでコートに立ってる。情けないと思う。

______けど

「日向こっちだって!」「アイタッ!」「一本ッッ!」

けど やっぱりここが好きだ。


「行け日向!!」
影山のトスは静かで速い。ドッと日向がボールを床に打ち付けるまで、0コンマ何秒の世界を見る。
「うっしゃぁぁ!」「よしっ!!」

「ドンピシャトスにドンピシャスパイク!痺れるぜ!!!
影山!次俺にもトス上げてくれ!」
「うす!」

アイツ・・・怪我から復帰できてよかったな。一ヶ月以上は病院通いで、部活に来ても補強しかしてなかったのに、ブランクを感じさせないスパイクは本当に怖いと思う。
ネットを挟んだ向こう側、俺は陽の壁を打ち抜けるだろうか。

一ヶ月前、怪我で出れなかった陽の分まで背負ってコートに立った。何度もトスを呼んだ。何度もスパイクを下された。後ろの西谷に負担をかけた。スガのトスを呼ばなくなった、あの日から部活に行かなくなった。
けど、バレーは嫌いになれなかった。____そうして俺がのろのろしている間に新しい天才、日向翔陽が現れた。

「目の前からブロックがいなくなって、ネットの向こう側がパァっと見えるんです!」

俺らが目指すのは、いつだってネットの向こう側_____

「______思うよ」
「・・・?」
「何回ブロックにぶつかっても」

「ボールの重みがこう、手にズシッとくる感じ!」


「もう1回_____打ちたいと思うよ」





「____それならいいです」
「・・?」

「それが聞ければ、今は十分です」

そう言って、西谷は俺にニカッと笑った。



俺の仕事は、ただひたすら「繋ぐこと」

「日向ナイッサー!」
「おっ、と、ネットインだ!」
「すまんカバー頼む!」
「オーライ!」
「そこのロン毛兄ちゃん!ラスト!」

空はスパイカーたちの領域で、俺はそこで戦えないけど



「来い!旭さん!俺が!絶対に止めてみせる!!」

「うるせぇ陽!後衛まで回さねぇよ!本気で行くっす!旭さん!」
「止めるぞ!!」
「命令しないでくんない」


繋げば、繋いでさえいれば

「もう一回 打ちたいと思うよ」

きっとエースが決めてくれる

影山、月島、田中。三枚ブロックに跳ね返された東峰のスパイク。
振り返った。ボールは今にも地に着きそうだ。
脳にフラッシュバックする、あの日のこと。

もう1度。
そう言っても、また。俺は止められて_____





ストッッッ





______西谷!?


「うぉお!上がった?!」「ナイスフォロー!」


「・・・・・っあ、」

「ノヤっさん。こっち来ない間の特訓って何やってたんだ?」
「んー主にブロックフォローだな。

ブロックされたボールを拾いまくる特訓!」


「ノヤっさん!!!」
「バカ泣くな龍!
俺も負けてらんねぇな!チクショー!!」

壁に跳ね返されたボールも
俺が繋いでみせるから

だから、


「だからもう一回!!トスを呼んでくれ!!


エース!!!」




29.8.25

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