2人のバレー馬鹿




【白鳥沢学園高校】


「セッター、及川から烏野に変わったの?アレ、誰だっけ?」
「烏野の10番ですよ。変人速攻コンビの、片方」
「へぇーすごいネ」
「まぁ変人速攻コンビのもう片方は、呼ばなかったみたいですけど」
「じゃあ見れないんだ?」
「そうなりますね」
「ザンネーン」


天童と白布はネットを挟んで立っている影山にわざと聞こえるように言った。

お前も相方さえいなけりゃ、ただの球出しだろう、と。


ピッ!

「獅音ナイッサー!!」


「オーライ!」
「陽さんナイっレシーブ!」
「影山すまん長い!」


ブロックは5番 10番 8番俺の選べるカードは、


レシーブで体制を崩した陽。残りのカードは少ない。
俺と五色と天童さんのブロックなら!
影山、お前の采配に勝てる!




「中島さん!」

ドッッッッッ!!!!



「うっ!」

クソ!当てるスパイク!!

「来るぞ!!」

中島のスパイクは白布の手にあたり、連合チーム後衛へと山なりに返っていく。

それをもう一度陽が拾い、影山に上げる。


「もう一回!」
「直せ直せ!」

「レフト!!」


及川のスパイクがブロックをくぐる。後ろで待ち構えるのは山形だ。丁寧なレシーブに、白布は舌舐めずりして牛島の名前を呼ぶ。


「牛島さん!」


ヒュウウ.....ドガッッッッッ!!!!


ピッ!

「しゃぁぁあ!!」



「やられた__」
「ま、牛島に点取られるのは前提だから。持ち直すよー」


軽蔑するような眼が、陽を捉える。
嫌な視線に当てられた陽は不本意だと、顔を歪める。


「牛島さん」




陽は以前牛島に、こう言われたことがある。

「お前は烏野で良かったのか」と。



陽が高校に進学して初のIH予選。
試合の空き時間に会場をフラフラしていたところ、偶然 牛島に呼び止められたのだ。



「痩せた土地で立派な実は実らない」




その言葉を、今まで忘れることは無かった。

前にもそんなことがあったが、人を強くするのは「場所」じゃない。結局「自分自身」だから。

痩せた土地?関係ない。1からやりゃいい話。


強さなんてまず、一通りじゃねぇだろ。




「陽さん!」


影山のトスを受け、陽の速攻。コースは特に読まない。むしろ目をつぶっていてもいい。速ければいい。

烏野はもう弱者ではないのだと、チームに幾つもの希望を与えてきた 日向の、あの速攻。


「んっ!」


ダン!!!!


ピッ!


「んだと、変人速攻!?」
「聞いてないぞ!!」
「あのチビだけじゃなかったのか、」


再現したのか。
牛島は陽を睨み、そして掠れた声で言う。


「やはり惜しいな。北来陽」
「そーう?若利君、そんなにアイツ買ってるの?」

「あの代では、アイツが一番良い素質を持ってる」
「へーえ?」



「だが、最終的に勝たなければ、強さの証明にはならない」



「若利君また力で解決しようとしてるー」
「天童、言い方っ」




何も、思うままに叩きつけているのではない。
力が全てではないことは、分かっている。

遠く離れたエンドラインから狙い通りのサーブを打つこと、ギリギリセーフになるところにボールを運ぶこと。

セッターの指一本や、リベロの力加減ひとつ。

綺麗なトス、上がるレシーブがその繊細な技術で俺の元に運ばれてくることは、分かっている。



「約束通り。牛島さんが使い物になるうちは、俺もトスを上げ続けます」


その悔しそうな顔が、俺に最高のスパイクを打たせるため、どれだけの時間と労力を費やしたのかも知っている。


俺もいずれ、使い物にならない時が来る。

そう悟るには充分な程、陽の強さは馬鹿にならないものだ。




「陽さん!ラスト!」
「来いやぁ三枚ブロック!」




アイツが純粋に、好きでやっているものなんだと知ったのは、中3の時、宮城選抜チームを組んだこと。

宮城選抜で一週間の合宿をこなした後、東京に試合をしに行く、というハードスケジュールをこなした。

県内で選ばれたという自信があっても、親元を離れて、自分のプレーは通してもらえず、心を折られ体も限界まで追い込む毎日を送ればヘトヘトにもなる。

ゲンナリとした様子の選手の中で、騒がしい2人組が居た。

「可愛かったよなぁ、高校生チームの女子マネージャー」

「俺達もさ、夕!高校入ったらあんな綺麗なお姉さんに褒めえもらえるのかな!?」

「うおおおおお!!燃えてきたァァァ!!」


千鳥山中の、二人だ。ベストリベロを獲った西谷夕と、異次元スパイクの北来陽。誰かが小さく言う。

何も驚かされることは無かった。プレーも俺よりは下だった。
しかし最後、解散の時。キャプテンの俺に、声をかけた陽にだけは、度肝を抜かれた。




「大好きなバレーを、牛島さんのチームでできて最高っした!ありがとうございます!!」






柔よく剛を制す 剛よく柔を断つ。




俺は、今だからこそ分かる。
奴を勝利へと導くのは、その強さではない。

身長、技術、速さ、精神。陽を構成する、優れた素質。

それ以上に、バレーを愛しているということ。その感情が奴の全てを動かし、何にも屈さないバレーを築いている。それが、チームを勝利へ導く理由か。




「このバレー馬鹿が」

「それ、褒め言葉ッスよね。

俺にとっても、牛島さんにとっても」

「_____そうか」






「影山。次のサーブは五色狙お。ちょっとバテてきてるから」
「うす!」


白鳥沢2回目のタイムアウト。

影山は白鳥沢のベンチの、監督の怒鳴り声やら選手達のお世辞にも明るい!とは言えない顔を見て、
改めて白鳥沢のバレーにはついていけないと思っていた。


白布のように命令を聞く都合よき武器になること、ウシワカを引き立てるための道具になることは、到底できない技である。


言わば軍事的なバレー。
なにか大きなもの。バレーで言えばインハイ常連校としてのプライドだとか、世間体を守るために使う選手は道具であるという、


だからこそ、牛島も「使い物にならなくなったら、」などという言葉を選ぶ。



烏野とは、何もかもが違う。


だからこそ、ここで白鳥沢のワザを持ち帰らなければ。何か得なければ。


影山は、ひとり拳を握りしめた。



31.3.16

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