譲歩する及川




【白鳥沢学園高校】


「おっ、お待たせしました!!」

「あ、たけちゃん!」
「先生!」


12時過ぎのお昼休憩。
時間はたっっぷりあり、自主練をしようと弁当をしまった影山と北来陽の元に、びっしょりと汗をかいた武田一鉄が遅れてやって来た。


「はちみつレモンです!!」
「たけちゃん!ラブです!!!」
「はいはい、皆で分けてください」
「えーあいつにも分けなきゃダメですか?」


陽がふてくされた顔で及川の方を指す。


「分 け て く だ さ い」
「うす…」

「じゃあ僕は、監督に挨拶に行きますから!」
「っす!」


「あ、烏野の監督さんですか。教官室まで案内します」
「はい、お願いします」








「ジャグのところに置いとけば皆食べるでしょ」
「そっすね」


陽がそう言って、ジャグが置いてある長机の隣にレモンのタッパーを置くと、ワラワラと野郎どもが集まってくる。


「オイカーさんはレモンの一番端食ってくださいね」
「それ皮しかないよね!」



「じゃ、影山!自主練!」
「無視すんなこら!及川さんも入れろよ陽!飛雄!」

「「……......」」


及川は後輩二人の冷たい反応に、国見と似たものを感じるのであった。











「ふーん。カゲヤマ、キタライ、オイカワ……ほんと、バケモノ」

「影山も、北来も、及川も中学の頃から注目され続けてここまで来てますからね。あいつらも見られ慣れてますよ。牛島さんが試合前に見ておきたいってのもわかりますけど…」
「フンッッ!!!負けませんよ!!」
「余計暑い。休憩くらい休めば?五色」







「影山。ちょっと俺のでブロック飛んでくれ」
「うす!!」
「及川さん、ボールあげてもらってもいいですか?」
「えーどうしようかなー」
「中島さんいいところに!!お願いしまっす!!」
「おう!!」




及川の指の一本一本。アタックラインから跳ね上がる陽の足。
スパイクは、ネットぎわで影山に跳ね返される。


「北来ー!!俺んとこまで来ないぞ!!」
「すんませっん!!」
「はーい次 次。頑張るよー」
「さっきの川西のブロック、最高到達点はこのくらいで、」



鷲匠の長いミーティングが終わり、メンバーはそれぞれ弁当を広げ始める。その中、白布はウィダーをキュッと握り、牛島選抜チームの自主練を見ていた。




「もっと下がれる?」
「はい!」
「後ろにギュイーって持ってくからさ、バックアタックね」


陽のゆるめのパスが、及川に触れる。

力強さも繊細さも備えた、華やかなトス。


「来い来い来い来い……」

(中島さんからの圧…)


陽は眼をかっ開く。影山には触れぬよう、後ろで待つ中島に届くよう。

狙いはあの腕の中、


「_____ッッ!!」


ガッッッッッ!!!!!


「ぅぬっ!!!!」


陽のバックアタックは、中島の腕に直線に走る。
上げることは叶わず、ネットの下を通過し及川の足元に転がるボール。


「____トス、よく計算されてるな」

「はい、」



糸が張られるようにボールが陽の元へ運ばれた。陽の打点をよく理解している及川だからできた技。




白布の隣にどかっと腰を下ろした瀬見が言う。


「悔しいか?」
「___いいえ。俺には俺の仕事があるので」
「あ、そう?」


「結構、意識してるようには見えたけど」





自主練を終え、あと5分で再び始まる試合の前、影山と陽は武田に集合をかけられる。




「タケちゃん、今日烏養コーチは」
「ああ、烏養くんはみんなの練習を見ていますよ。君たちには今日、口うるさいコーチは要らないだろうって」
「ええ?そんなことないのに」
「まあ、実際のびのびできてるらしいじゃないですか」
「鷲匠監督?」
「そうそう。言ってました」

「いつも通りですよ?」
「ええ?そうですか?」

「多分俺が白鳥沢にいたら、監督がいなくてのびのびできる!って思うかもしれないっすね。

けど、ウチのコーチはいっつも俺たちを尊重してくれるから、いつものびのびできるんです。
白鳥沢の3番みたいな人も、ウチだったらスタメン入りしてると思いますし」

「尊重......ですか」

「じゃ、いってきまーす」



「陽チャン、次ポジション変えるよ」
「ええ?おいかーさん帰るんですか?」
「違うよ!てかそれお前の願望だろ!」
「え、よく分かりましたね。さすが及川さんだなぁ」
「嬉しくない!!!」
「及川さんが帰ったら、オレ俄然無敵なんですけど」
「俺の言葉を借りるな!!」




プリプリした及川が他の青根、中島、百沢を集めて説明する。




「次は、百沢と青根が引き続きミドルブロッカー、俺と陽でウィングスパイカー。で、俺はオポジットに付くから。

飛雄はセッター。いいね?」



「セッター、俺でいいんすか?」



「うん。いいよ。せっかくの合同チームだし。優秀なスパイカーとの良い勉強でしょ?」


「おっ、オイカーサン、今俺初めてオイカーサンのこと、イケメンだと...」



「べーだ飛雄 手の内バレちゃえ!」



「............」
「及川さん...いい先輩だった......」
「ちょっと!死んだことにしないでくれる?」

「イケメン及川さんに今生の別れを告げました」
「イケメン及川さんなお健在だから!!」

「さっきの一言がなけりゃアンタほんとにいい先輩だぜ」
「惜しすぎますね...」
「うん...」
「皆して酷い!!」



「及川さん......ありがとうございます!!」

「心配はしてないし、元は勝つためにいるチームじゃない。分かるね?飛雄」

「ハイ、」

「俺は、お前が【牛島のいる白鳥沢】と試合できるのも、これが最後だから、と思って」

「___すみません。最後じゃありません」

「え?」


「俺が__いや。

俺達が牛島と戦うのは、今日が最後じゃありません。

最後コートに残るのは、俺達です」



「ふふ、言うね飛雄。期待してるよ」




陽がベンチに戻ると、目をウルウルさせた武田先生が、


「影山君は、変わりましたね」


「___はい。そうっすね」



「意識が個から、チームになりました」




午前の試合が始まってから、午後の試合中もずっと、影山はあることを思っていた。


正直に、このチームはやりやすい。


狙いを定めたスパイク。
コースを締めたブロック。
対応力のあるレシーブ。
武器になるサーブ。

求められたことを、それ以上で応える選手ばかりだ。

【偶然を当然にする選手】こそ、中学の時から求めてきた、俺の理想なのかもしれない。

だけど、俺の中でそれはとうに崩れ去っていた。

日向みたいな速攻。
未完成の偶然が奇跡を産むような一点。

勝つべくして勝つよりも、弱くても勝つような、そんな世紀の大逆転をかましてやる方が、よっぽどスゴいんじゃねェのか。

そう思い始めると、なんだかあの速攻も、




「影山クーン」

「ハイっ!」


白鳥沢のタイムアウトでコート外に出た時、陽はニヤニヤとイタズラ好きのする顔でこう言った。


「そろそろカマシちゃいます?言わずと知れた、烏野名物」




31.3.14

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