合宿最終日

【合宿最終日】


「陽、次のサーブはお前だ。気張ってけよ」

音駒との試合も3セット目、24-23の佳境に入った烏野。一点を許せば負け、一点取ればデュースに持ち込める。音駒のペースを崩せれば、後はこっちのもんだ。
音駒の取ったタイムアウト。シメのつもりでその問いを出したコーチの烏養に、陽は真剣な顔で言い放った。


「今の俺は肉です。だから大丈夫です」


「何言ってんだ?」
「陽、変なボケ入れんのは試合の後にしな。大地もお怒りだし影山も困ってるから。な?」
「俺は焼肉です!!」
「影山ァァァァ!!」

「本当に脊髄反射で生きてるよねえ」

月島の冷ややかな嘲笑と重なるように、終了の合図である笛が鳴った。







「やっぱり熱あったかあ」

「成田が俺をベッドに押し倒した」
「いかがわしいからやめとけ」
「あんでだよ。たまには俺にもノってくれ」
「陽とフラグ立てた暁には、ファンに暗殺されるだろ」
「おまえって何者なの?」


その試合には結局負けた。試合終了後、チームメイトの中で1人異様なリンゴほっぺをしていた陽に、烏養監督は「熱測ってこい」と指図した。やっぱりな。俺は「自分が行きます」と立候補し、陽を保健室に運んだ。


「俺って強制送還されるの?」
「いや。これから焼肉」
「やっほい!!」
「行くな!」
「いや、実は熱下がった」
「んなわけあるか!!」

「良いか、体調悪い時は体にいいもの食べるんだぞ」

「お前は俺のお母さんか。じゃあ俺は焼肉の前でシロメシの刑か?なんつー拷問!」
「シロメシじゃなくて粥だよ」
「死刑宣告か!」


大人しく寝とけ! 陽にめくれた布団と脅しをかけて成田は保健室を後にした。


「はいはーい」

冷房の音と蝉の音は涼しいと暑いの相反する感覚を産んでくれる。熱があるせいか、頭はそんな些細なことも気にするようになる。成田が気を遣って置いていってくれたスマホを寝台から手探りでつかんで、ラインを開いた。

白布賢二郎【性処理はどうしてるー?】

「最近は人妻もんが好き、っと」

送信してから、ふと思う。
あれ?白布ってこんなこと聞くやつだっけ?こんな出会い系まがいの内容、アイツらしくないなあ。本当に白布なのか?なんだか怖くなってくる。こういう時はスマホをいろんな角度から見てみることに尽きる。と誰かが言っていたような気がする。のでやってみるのだが、あ!新しくメッセージがきたぞ。

天童覚【意外にゲスなAVが好きなんだね〜】

てっ、てんどおお……。追加していないはずなのに白鳥沢の恐ろしきブロック・モンスター様から直々にラインが来おった。気のせいか白布の会話の続きのような気がする。怖い。今 俺の体は急激に冷却されている_!!

白布賢二郎【ごめん、今の天童さん】

白布が寮の食堂でスマホを開きっぱなしにして食器を片付けに行ったところ、天童さんがその画面から勝手にラインを送り、さらにはアカウントをゲットしたというワケだ。

「あー怖かった、」

と安堵できたのも一瞬。ゲス・モンスターはその悪手を緩めはせんかった。恐ろしいライン電話の着信音に俺は体を震わせる。

『あ!もしもし陽?俺だよ〜天童』
「ハハ、こんにちは」
『俺のこと知ってんの?嬉しいなあ』
「そりゃ知ってますよ」

知らんわけあるか!盛大なツッコミも心の中であれば何も害はない。

『陽はさ、今週末とか空いてる?空いてたらなんと!白鳥沢にご〜招待〜!若利くんがね、一緒に練習したいんだって』
「牛島さんが,,,,,,」

ウシワカ。まさか、あの全国的に見てもすごい王様から、(天童さん越しではあるが)オファーがくるなんて。というか白鳥沢って大学生との練習が日常なんじゃないのか?そんなところに俺投入? 道中 死ぬ恐れがある。やっていけるのか北来陽。

でも…行きたい。

ウシワカの「一緒に練習したい」の本当の目的はもしかしたら烏野の調査なのかもしれない。日向影山の恐ろしい1年コンビを加えたウチの下調べなのかもしれない。
しかしだ、よく考えろ俺。俺の単独潜入だけなら単に俺一人のネタバラシで済むこと。俺達の手の内は絶対秘密!俺は白鳥沢のウチ事情いっぱい見れる!ってことは俺 スパイ!?
オイ!これかなりいい話なんじゃないの!?



『どした?気絶?』
「え?あっ!行かせてくださいッ!」
『お!いいねーじゃあ9時から練習始まるからよろしくね
で、さっきの人妻もんの話なんだけどさ、陽くんはどんなの見てんの?ちょっと参考にしたいんだよねえ。ほら、寮暮らしって意外と大変じゃん?そういうの』
「あー、確かに」

共同生活か。寮に彼女を呼んだりできなさそう。
というか白布や瀬見さんなんか硬派な野郎どもはHな話に興味なさそうだ。五色は…どうかな。これ見たらウシワカに勝てると吹聴したら「ぜひ拝聴させてください!」とか言い出すだろう。
俺と田中みたいに気軽にAVを貸借りするような仲も、白鳥沢には存在しないだろう。高潔なお坊っちゃまだからな。かわいそうに。

『だからさ、教えて欲しいんだよね。どんな内容のがオススメ?』

「参考までに幾つか。例えば同僚の妻を寝取ったりとか、清純そうなJKと密会とか、そんなんがいいんじゃないですか?」
『へえ〜結構背徳感あるやつが好きなんだねーあとは?』
「あとは?えーっと、女子マネさんが部員全員をご奉仕して回るのと「北来君、調子ど...」

「潔子さ、」

「_____お邪魔しました」

「潔子さんんんんんん!!」

ガラガラガラ。ドアの閉まる音と、俺のプライド城壁という城壁が一つ残らず崩れ去る音がした。なんか嫌な予感がしてたんだ。というかいつの間に来てたんだ潔子サンッッ!!!



「終わった………」
『何が?終わったの?まだ話終わってないよね?おーい陽クーン』










「陽サン、」
「何コイツ。何で「あしたのジョー」のラスト再現してんの?」

「___聞かれた」

「え?何を?」

「AVの話 潔子さんに聞かれた」
「あちゃー」
「そんなんきにすんな!陽!明日からも潔子さんの尊きお背中を追いかけよう!」
「正確にはお尻でしょ」
「んだと月島!潔子さんの、お、お尻ですと!?」
「動揺すんな田中」

「陽熱下がってよかったじゃん!焼肉の恩恵だなあ!はっはっは!!!あかーし!恩恵の使い方あってる?」
「あってるんじゃないですか」


そう結局、俺の熱は下がったのだ。あの時に俺のフィーバーもれなく血の気もサーっと引いた。瞬間冷却とはまさにこのことだ。


「でも陽君はハッピー脳だから今日の夜には忘れちゃうでしょ?」
「赤葦……案外恐ろしいやつ」
「そうかな?前に木兎さんがナースAV熱弁してるとこ女子マネに聞かれた時は立ち直り早かったよ?」
「兄弟で同じことやってんなよ…。立ち直り?寝たら忘れてたの?」
「確か3歩だったかな」
「ニワトリの速度!」
「あの人の忘却曲線は暗記から急下降だから」


自分のことじゃないのに、ギクッとして何も言い返せなかった。







「じゃあ16時にはバス出すから、荷物まとめとけよ」
「「「ハーーイ」」」


BBQ後のミーティング眠すぎ。とインスタのストーリーにあげようと動画を確認したら、西谷さんと田中さんの目の半分は幕を下ろしているし、影山と陽さんに至っては意識すらなかった。




「陽さん、寝てたでしょ」
「えー寝てないよ?そんなことしたら大地さんにぶん殴られるもん」
「じゃあそのタンコブは?」
「月島…お前鋭いところをつくな」


図星である。


てれててれれれれててててれれん!

「電話ですか?」
「あ、俺?」

ちょっと出てくるわ。僕はあんたのその急にサラリーマンぶるところ、よく分からない。荷物仕度をしていた二年何組かから廊下へ出て行った陽さんは数分後、若手アイドルのするぎこちなーい作り笑顔で帰って来た。

「何かあったんですか」
「いや、なんもないよ?うん」

いや、なんかあったんでしょ?この嘘が見抜けない節穴なんていない。ジト目で睨むと陽さんはこれ以上は聞くなと言いたげに顔をそらした。


だけど、後々聞いておけばよかったと後悔する。その瞬間は、確実に迫って来ていた。



31.3,12

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