小さなアンヨ




「夕?」

烏野高校 2年3組 昼休み

「ゆう?」
「・・・・・」
「あのさ、タラコおにぎり食べたい」
「・・・・・」
「購買行かね?」
「・・・・・ぁぁ」
「よし!そうと決まったらレッタラコーだな!大丈夫?立てる?
アンヨ、できまちゅかぁ?」
「・・ぅうるせぇぇ!!」
「ゆう!アンヨできるやーん!」
「できるに決まってんだろ!」

ズカズカと前を歩いていく西谷夕に、後ろで北来陽はニカニカと付いていった。

「ゆう最近太った?」
「あぁ!?何でだよ」
「部活出禁だから」
「ちゃんと動かしてる。へーき」
「って言っても、1人じゃ何もできないべ?」
「ああ。だからママさんバレー行ってる」
「ふぇ!?」
「ママさんバレー行ってっから!!へーきっつってんの!!」

陽はキョトンとした顔で固まったので、西谷はバカにされるのだろうと構えた。陽が冗談で人のことをバカにするのはよくある。けど、バレーに関してそれなりにこだわりがある陽は、高校生にもなった俺がママさんバレーに参加すること、どう思うんだろうか。

「おい、陽?」

「おんめ、すげーなあ!俺そんな勇気ない!」
「っそ、そうかよ」
「ああ!なぁに照れてんだよ!ゆう!」
「はぁ!?」
「な!明日の土曜オフだからさ、俺も連れてってくれよ!そこ!

俺、新技考えたんだ!夕でも拾えねーような!」

ああ、良かった。
西谷は安堵した。あの時と変わらない。陽も俺も。バレーができるなら場所を選ばない。

よく強いところに行きたいと練習場所を選ぶ奴がいる。確かに、強豪校に行けば質の高い練習ができる。だけど、そこで練習するのは自分だ。全部、自分次第。

だから、場所に強くしてもらうんじゃない。
結局、自分を強くするのは自分なのだ。

小学6年の、夏。西谷にそう教えたのは、陽だった。
あれから5年たったか。陽もまだその心を捨ててない。西谷は心から湧き上がるものを自覚した。

「おお!燃えるなそれ!いいぜ!連れてってやるよ!」














「おい!聞いてくれ龍!」

後日。西谷とママさんバレーの練習に参加した陽がさらに足の怪我を悪化させてきた。

「俺の新技もバッチリだったぜ!」という陽の爽やか笑顔を打ち砕くように、澤村の雷が落ち、菅原の笑顔で体育館が凍った。
田中は数日間 悪夢に悩まされた。




29.8.24
29.11.12 改訂

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