「しばらくは休めないだろうな」
「5年前からでしょ」
レアはコーヒーに入れたばかりのミルクを混ぜながらリヴァイに言った。
「このハードワーカーが。前線から外れてる時くらいブラックやめればいいものを」
「俺はレアが3月にくれる菓子でしか糖分とらない」
「あんたが2月に花を贈るからでしょうが。名無しで」
「あれは俺からだ」
「分かってるよこのキザ」
「優秀だ」
「ほんと呆れる。
___リヴァイ。こんな集団にいればキザなことの一つや二つしたくなる気持ちはわかる。けど見当違いだよ。私に送るのは」
「この俺が間違えるかよ」
「あなたを慕う女は沢山いるんだから、少し愛想でも配ればいいのに。兵団の士気も上がる」
「俺はお前の笑顔に惹かれて馬に轢かれた奴を知ってる」
「上手い冗談を言えと頼んだ覚えはないけど」
「これは冗談じゃねぇ。期待させてどうする。あいつらは死ぬ。次か次くらいに。俺も死ぬだろう」
「そんなこと_」
「だが、お前は死なねぇ」
レアはその時、リヴァイが何の確信を持って言っているのか分からなかった。迷いを切り裂いてゆく立場にある彼がいつもより情けない。固い意志を灯らせる瞳が不安に揺らぐ。
あなたのそんな顔はみたくなかった。
「変わらないお前が欲しい。____縋らせてくれ」
誰が想像するだろうか。彼のこんなにも弱い心を。人類最強と言われ多くの部下を従える兵士長が年下の女に縋りたいなど。人を守る為のその腕を腰に回して、まるで守られたいみたいに。
「私も死ぬよ」
しかし、その気持ちを誰よりも理解できるのはレアなのだ。
「あなたがいなければね」
死ねない者同士。
だからリヴァイはレアに縋る。レアもリヴァイに縋る。偶然同じ境遇に置かれた。誰もが憧れるけれど誰よりも不幸な位置だった。誰よりも強く誰よりも脆かった。
どちらか消えれば、どちらかも後を追うように消えてしまうのだろう。
気付けば影が消えていた。
その時だった。彼らのいる部屋の戸が荒く開けられ、レアの従える下っ端兵士が伝達に来た。
「失礼します!レア副団長、リヴァイ兵士長!」
「巨人が、ウォールローゼに!!!!!」
30.3.2
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