15イイヒト

「アルミン。覚えているか?
数年前に壁を破壊された時と同じだよ。

やはり、知性巨人の中には操縦士がいた。」

調査兵団の壁外調査中。現れた女型の巨人は調査兵団の右翼側索敵を殲滅した。
しかしエルヴィンは何の指示も出さず、陣形は前へ前へと進む。そして辿り着いたのだ。巨大樹の森へと。

エルヴィン、リヴァイ班はじめ隊の中列は森の中を進む。それを追う女型の巨人にはレアの隊員が相手をした。
他はミケの分隊のナナバを筆頭にサイドへ回り込み、高木の上へ避難する。巨人を引き付けるのだ。
突如、森の中から響いた大砲の音に新兵は驚く。この作戦を伝えられていないのだ。女型の巨人が森の中にいることは確かなのだが、彼らには団長の意図が分からない。
“知性巨人の操縦士”
アルミンは、以前レアとした会話を思い出した。
エルヴィン団長は、女型の巨人の中身の人間を捕獲しようとしている。エレンを囮にして、ここまで女型をおびきよせたのだ。上手く捕まえれば、僕達は世界の真相に近づける。そして、その重大な情報を吐くのは女型の中身。恐らく_________

「あの子です。エルヴィン。
5年前に壁を破壊し、訓練兵を卒業した___。」
特定目標拘束兵器。そのワイヤーに自由を奪われた女型の巨人を眺めて、レアは言う。彼女も、勿論この作戦に携わっていた。女型の巨人、またその仲間は壁内に潜入した諜報員。 なので、5年前のあの日以前から所属する兵士のみに伝えたこの作戦だ。

時間稼ぎのために、彼女は先程まで女型の巨人と併走し戦っていた。目の前で部下が散々に殺されていく中、彼女は女型の視界を奪うことに成功した。すると女型は両の手で項を抑えて走り出す。
辛うじて生きていた部下は彼女に聞いた。副団長、次はどこを狙いますかと。彼女は手の筋、そして脇だと答えた。そこを削げば項は無防備になる。手を挙げる力を失えばいい。そしてそれに十分な時間を費やした後、エルヴィンの待つ罠にかかれ。後ろに転がる仲間のためにも___私達は
「副団長!ぁああ!女型のっ!目が治って_!」
自身のワイヤーを巻きとりながら叫んだ私の部下が、次の瞬間には女型によって握りつぶされた。私が女型の両目を失明させてわずか1分足らず。早すぎる、ありえない。
「副団長!もう一度目をやりますか!?」
「いや、もういい!刃をしまえ!!」
そう告げた時、レアの部下の顔は晴れやかになった。そりゃ誰だって無謀な奇襲はしたくない。そうしたが最期、ワイヤーが死までの距離を測ることになる。
私達は時間を稼いだ。その割に合わない程の犠牲も。そして、誘導地点はすぐそこだ。
「撃てーーーーー!!!!!」

そのようにして捕えられた女型の巨人だが、項を手で抑えており簡単には削げない。リヴァイとミケの得意の回転斬りでも、刃の無駄遣いに終わる。
「俺達がここまで誘導したのを無駄にしないでくれ!団長!」
この作戦を前々から知るレアの部下は、エルヴィンに懇願した。刃とガスを新しいものに詰め替えたレアは、女型と戦ったその道を振り返る。確かに死にすぎた。しかし、エルヴィンの選択は間違っていなかった。

「は?何が間違ってないって?兵士がどれだけ余計に死んだと思ってんだ?」
また、アルミンも口を揃えてエルヴィンは間違っていないと言った。
「ジャン。結果を知った後で選択するのは誰にでもできる。後からこうすべきだったと言うのは簡単だ。
でも、結果を知ることは誰にもできないだろ?あの巨人の正体は誰か?何人いるのか?何ができるのか?
分からない!いつだって分からないことだらけだ!でも時間って流れるし止まったりしてくれない。結果を知らなくても選択の時間は必ず来る!
100人の仲間の命と、壁の中の人類の命。
団長は選んだ。100人の仲間の命を捨てることを選んだ。」

何かを変える事ができるのは何かを捨てることができるもの。
何一つリスクなど背負わないままで何かが変わるなど__
「お前は確か__色々なやり方で俺の部下を殺していたが__あれは楽しかったりするのか?」
リヴァイが女型の頭に乗って何か語りかけている。レアは不審に思った。
「ミケ。リヴァイは何してるんですか。脅迫ですか?対象は知性を持ってます。私達の言葉も聞こえていた。今すぐやめさせた方が__」
「レア!耳を塞げ!!」
【ああああああああぁぁぁぁぁあああ!】
女型の叫び声が森一帯に響いた。レアの隣、ミケは鼻で何かを嗅ぎとったのか、エルヴィンの元へ行ってしまう。何。何が起きてる?状況が分からずにいると、巨人の足音が聞こえてくる。
「全方位から巨人出現!!!」
下で待機していた兵士が声を張り上げた。東の方角から我先にと駆け出してきた巨人は、競うように女型に食らいつく。そして、遂にエルヴィンの戦闘許可が降りる。
「全員戦闘開始!!!女型の巨人を死守せよ!!!」
リヴァイやレア、ハンジらを始めとする捕獲作戦に採用された兵士らは次々に女型に纒わり付く巨人を狩る。しかし、キリがない。追いつかない。女型はどんどん彼らに引き裂かれ、暴かれてゆく。腕も頭ももぎ取られて、中身などもう死んでしまったかもしれない。エルヴィンは兵士らを木の上に一時退避させた。
「ハンジ・・・どういうことだよ。これ。」
「分からないよ、全く。ただ分かるのは女型の中身は死んだかもしれないってこと、この作戦が失敗に終わったってこと。」
「この兵器のために私達は兵団の信頼を賭けて来たってのに・・・くそ。」
レアが言ったように、作戦の失敗は兵団の存亡に関わるものだった。大損害に対し利益は皆無だからだ。しかし、それを憂いている暇はない。必要なのは、迅速な判断。これ以上失敗をするわけにはいかない。例え今が最上級の失態だとしても。
「巨大樹の森、西方向に集結し陣形を再展開!カラネス区へ帰還せよ!!!」


「チッ・・・なぜ俺は自分の班を呼ぶためだけにガスを補充させられた・・・そしてなぜお前付きなんだ、レア。」
「リヴァイ。聞くだけ無駄。」
巨大樹の森の中。エレンやグンタ達が駆けた方角へと進む。実のところ、ガスの補充をエルヴィンから命令された理由も、レアが付いてきた理由も、リヴァイは分かっていた。ただ、誰かに改めて言って欲しかった。それだけなのだ。
「・・・ああ、すまないな。」
「大丈夫。頭が追いつかないのは皆同じ。」
女型の中身が食われたか、それは誰の目にも映らなかった不確定なもの。もし生きているなら(生きている可能性の方が大いにある)女型の中身はエレンを追いかけるだろう。だから私達はこうして追っているんだよ、リヴァイ。
「だけど、私達はやらなきゃいけない。裏切りの鉄槌を下すのではなく、仲間の復讐でもなく。
屈辱だけど、丁重に壁の中へもてなす。巨人の正体は何ですか?ってひとつひとつお伺いを立てる。
それしか、世界の真実を知る術はない。

エルヴィンは人類の勝利のためなら、全てを捨てる覚悟でいる。」
「そうか。お前の大好きなエルヴィンの読みが当たれば、女型の野郎の中身は兵士のフリをして紛れ込んでるんだろ?鬱陶しい。」
「____リヴァイ、あれって、向こうの木の枝から、」
「______グンタだ。」
立体機動で移動していたのか、ワイヤーが木の皮に刺さったままぶら下がる、リヴァイ班グンタ・シュルツ。彼のうなじは綺麗にそがれている。
「うなじだ、俺達と同じ殺し方___」
「エレンが危ない。やはり、女型はエレンの同期だった。」
「なぜそう断言する!?」
「行こうリヴァイ、モタモタしてられないよ。____リヴァイ?」
「待て、まだ俺の班の奴らが___」
そう言って止まったリヴァイの目に映るのは、無惨にも死を遂げたエルド、オルオ、ペトラ。その様子を見てレアはリヴァイの肩を掴む。
「リヴァイ!どうして止まってるの!!

オルオもペトラも大事なのは知ってる!けど選んだんじゃないの!?大事な命と、捨ててもいい命!
今すぐエレンを助けに行かないの?!」
「待て、頭が追いつかねぇ!時間をくれ!レア!」
「こういう時に限って、甘えたこと言わないで。悲しみに浸る暇はない。

悲しいよ、リヴァイ。あなたがそんな男だったなんて。
私はエレンを助けに行く。リヴァイはそこで彼らを眺めてればいい。

本当に・・・・・心外だよ。」








29.7.9



戻る 進む
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -