14エネミー

「ソニーぃぃぃい!ビーぃぃぃン!!!ああああああ!!!」





先日、トロスト区に空いた穴から多数の巨人が出現した際、捕獲した2体だったが、今それは骨と蒸気でしか残っていない。

「嘘だろ…兵士がやったのか?」
「ああ、まだ犯人は見つかってないって。
夜明け前に2体同時にやられたらしい。見張りが気付いた時には、立体機動で遥か遠くだ。」
「2人以上の計画的作戦ってワケか。」

「見ろよハンジ分隊長…ご乱心だ。」


ハンジは涙を流して顔をぐちゃぐちゃにし、更に髪をぐちゃぐちゃに掻いていた。全く。巨人の奇行種もびっくりなさまだ。

これは堪えただろうな……。
今回は5回目にして、やっと殺さずに実験を進めることができたのだから。思い入れも強いだろう。

「ハンジの方のフォローはモブリットに任せておけ。レア、行くぞ。エレンを見つけた。」

「分かりましたから。エルヴィン…押さないで。」

半ば強引に背中を押されたけれど…まあいい。大事なのはこの後だから。


「エレン。」

「団長!

これは一体?」

エルヴィンの後について、私はリヴァイ班に声をかける。そして、この質問を繰り返すのだ。



「君には何が見える?」

「敵は、何だと思う?」



「………敵、ですか。巨人だとしか思えません。
ただ、この巨人を殺すべきではなかった。」

「…………………そうか。

確かに、犯人は恨みを向けるベクトルを間違えてしまったようだね。
ペトラ、急にごめん。答えてくれてありがとう。」

「いえ……。」


リヴァイ班の彼等は皆、巨人殺しのこの案件より、私達の質問に不審がっていたように思う。
しかし、これはどの兵士にも言えることだ。

明確に答えられる者は、1人もいなかった。




その後、訓練兵に至るまで行われた犯人探しは難航を極め、遂には新兵勧誘式、この時まで見つからなかった。


「私は調査兵団団長、エルヴィン・スミス。
所属兵団を選択する本日、私が諸君らに話すのはやはり調査兵団の勧誘に他ならない。」


エルヴィンが登壇するだけで、訓練兵の緊張感は増す。
私も、最初はエルヴィンが怖かった。私やハンジの時はその上にキース団長がいたのだから、まだマシな方だ、最近は。
それにしても、私が怖かったら元も子もない。結局毎年同じ怖さということになる。

けれど上司より、何より怖いのは巨人だ。


「既に巨人の恐怖も、己の力の限界も知ってしまったことだろう。
しかしだ。
今回の襲撃で失ったものは大きいが、これまでに無いほど人類は勝利へと前進した。

それは周知の通り、エレン・イェーガーの存在だ。
彼と諸君らの活躍で巨人の侵攻は阻止され、我々は巨人の正体に辿り着く術を獲得した。

彼に関してまだここで話せることは少ない、だが間違いなく我々の味方であり、命懸けの働きでそれを証明している。そして──」





「エレンの生家、グリシャ・イェーガーの地下室に巨人の謎があることを、新兵勧誘式で公表してください。」

「────レア?
彼等にその事を話すのは、まだ早いんじゃない?」

「いや、ハンジ。今日じゃないと遅いんだ。

今日で解散する104期訓練兵の中に、被検体を殺した犯人がいる。
そしてその犯人は壁外からのスパイで、5年前の超大型、鎧の操縦士、またその仲間でしょう。」

「──は!?」

「レア。なぜそう言いきれる?」

「全兵士の立体機動装置を確認した時のことです。
自分の装置の代わりに掃討作戦で亡くなった兵士の装置を出した者が、訓練兵の中にいたと。」

「なるほど……戦い慣れていなくとも、固定されているなら殺せた。しかも5回目の被検体で急に………有り得るな。
その情報は確実か?」

「確かだよ。ミケ。

彼等は壁内の私達が巨人の情報を得ることを恐れたのでしょう。
明日、エルヴィンのどんな脅しを聞こうとも、彼等は必ず調査兵団を選ぶ。
そして、ひと月後の壁外遠征、乱れた状況下でエレンを攫う、または殺す可能性が高いと予測します。


やはり───明日その場で、揺さぶりをかけるべきでしょう。」





「もう一度言う………調査兵団に入るためにこの場に残る者は近々殆ど死ぬだろう。

自分に聞いてみてくれ。

────人類のために心臓を捧げることができるのかを。




以上だ。他の兵団の志願者は解散したまえ。」



自分で進言しておいて何だが、些か彼等の中のスパイの為に寄せすぎた感じが否めない、そんな演説だったと思う。

多くの兵士が恐れ、迷い、足を震わせて立ち去る姿。それらをひと通り眺めていると、エルヴィンはこちらを振り向き、私に代わるよう言った。

言われた通りに前に出ると、話に聞いていたあの子が見えた。堂々とした足取りで、なんの躊躇もなく去ってゆく。





新規調査兵団加入団員は、総勢21名。
その中にやはり彼等は、残っていた。





その後は、壁外遠征の長距離索敵陣形、信煙弾のレクチャー、多岐にわたり講義が行われた。
殆どネス班長が教壇に立ったが、実戦訓練には他の団員も仕事の合間を縫って見に行った。
その中でも私は、兵士2名を自分の分隊へ編入させた。






そして、1ヶ月後。カラネス区からその大部隊は発った。



「第57回壁外調査を開始する!


前進せよ!!」






29.6.10



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