りとる×りとる | ナノ

 run run run !

走って 走って 走って!
なーんだハンター試験って簡単




「(もしかしてほんとうに走るだけ?)」

試験が始まってどれくらい走ったんだろう。いつの間にか集団の一番前を走る試験官に追いついてしまった。

ちょこちょこと走りながらもマユは汗ひとつかいていなかった。少しずつ上がる試験官のペースにも難なくついていく。

「(走るだけだと飽きちゃうな〜)」

ふあ、と小さく欠伸をする。長い長い階段もただ走るだけだし、退屈で仕方なかった。筆記試験なんかよりは全然ましだけど。

「あれ?いつの間にか一番前にきちゃったね」
「うん。だってペース遅いんだもん」

大人とはちがう明るい声が聞こえてきてマユは後ろを振り返る。そこには黒髪の男の子と、銀髪の男の子が二人並んで走っていた。銀髪の方はイルミさんが言っていたキルアだ。そのとなりを走る黒髪の子をみるとバチリと目が合った。

「キミすごいはやいね!」
「…これくらいふつうだよ」
「へえ〜余裕じゃん」
「だって走るだけだもん」
「確かに。つまんねーよなー」

キルアがわたしの意見に同意する。自分と同じくらいの年齢の子供が参加しているのはちょっとびっくりだった。

「オレはゴン!12歳!キミは?」
「…マユ。10歳」
「年下じゃん!オレはキルア。ゴンと同じで12歳」

よろしく!とゴンに屈託のない真っ直ぐな笑顔を向けられてまた驚いた。蜘蛛には大人しかいないし、同じ年頃の友達もいない。親しげなゴンの笑顔にどうしたらいいかわからなくてうん。と小さく返事した。いつの間にかゴンとキルアはマユの隣に追いついて並んで走っている。

「ねえ、マユは何でハンターになりたいの?」
「うーんと」

幻影旅団であることはもちろん隠さなければいけないし、理由を聞かれた時のことを考えていなかったので悩む。

「なんだろ…認めてもらうため…かな?」
「認めてもらう?誰に?」
「…親、に」
「へーうちも大概な家族だけどマユのとこも変わってるなー」

そう言うとゴンとキルアは納得してくれたのでほっと小さく胸を撫で下ろした。

まあ、親というのも家族というのもあながちまちがいではない。クロロに蜘蛛に入れてもらった時も家族として思え、って言ってもらったし。そもそも流星街生まれのわたしには蜘蛛以外の知り合いも家族もいなかった。だからわたしにとっては彼らが親で、兄で、姉で、家族のようなものだ。

「キルアは?」
「おれ?別にハンターになんかなりたくないよ」
「そうなの?」
「ものすごく難関だって言われてるから面白そうだと思っただけさ」

拍子抜けだけど、と言いながらキルアは飄々と笑う。確かにハンター試験はすごくむずかしいって聞いてたけど一次試験もただ走らされてるだけ。もっとこう、ぶわーっ!と派手に暴れたりできて生き残った人が勝ち!とかだったらいいのにな〜。

「ゴンは?」
「オレの親父がハンターをやってるんだ。親父みたいなハンターになるのが目標だよ」
「ゴンのお父さんはすごいハンターなの?」
「わからない!」
「なんだよそれ!」

写真でしか知らない。といいつつもゴンは知り合いに聞いたと言う話を楽しそうにしてくれた。

そんな他愛のない話を三人でしていると前が明るくなって出口がみえてくる。やっと走るのは終わりかな?と思いながら外へ出ると目の前に広がったのは見渡す限り緑が続く湿原だった。

「ヌメーレ湿原。通称詐欺師の塒。二次試験会場はここを通って行かねばなりません」
「まだ走るのかな」
「みたいだね」
「階段よりは楽しそうだけど」
「楽しそうってマユ…」

コソコソとゴンとキルアと話していると後ろの方から「ウソだ!そいつはウソをついている!」と大声がして周りがざわつく。

「偽物だって。あの猿すごく似てるね」
「って言われてもなー」
「えー?でも試験官の人から獣の匂いはしないけどなぁ」
「匂い?」
「オレ鼻が効くんだ」
「へ〜すごいねゴン」
「じゃああっちが偽物?」
「そうなの?…あ」
「マユどうしたの?」

「オレが本物の試験官だ!」と騒ぐ人に向けられた一瞬の殺気に気づいて振り返る。それでもマユが何かを言う前にグサグサっと三枚のトランプがその人の顔に刺さって倒れる。その場の雰囲気が一気にざわついた。

正確にはもう一人の試験官にもトランプは飛ばされていたけど、そっちはしっかりとキャッチしていて無傷のままだった。

「くっく…なるほどなるほど◆」
「(うわぁ…ヒソカさんたのしそう…)」

トランプを投げつけたのはヒソカさんでとても楽しそうに笑っていた。やっぱり近寄らなくて正解だった。目立つし、変態だし。巻き込まれたくない。

再び走り出した本物の試験官の後ろをついて走り出す。さっきの舗装された地面とはちがうぬかるんだ道がぐちゃぐちゃとしていて走りづらかった。

「ゴン、マユもっと前に行こう」
「試験官を見失うといけないもんね」
「そんなことよりヒソカから離れた方がいい」
「それにはわたしも同感」
「あいつ殺しをしたくてウズウズしてるから」
「なんで2人ともわかるの?」
「オレも同類だから。臭いでわかるのさ」

キルアのその言葉にゴンはキョトンとした顔だった。イルミさんの弟ってことはキルアの家は暗殺一家のはずだ。確かにゴンよりも強そうな雰囲気。ヒソカさんの殺気にも気づいている。わたしもバレないように気をつけないと。

「レオリオーー!!クラピカーー!!キルアが前に来た方がいいってさーー!!」

ゴンがキルアの忠告に大きな声で叫ぶと後ろの方から返事が返ってくる。仲間がいるのか…ならはやく合流した方がいい。ヒソカさんの殺気はどんどんと強くなってるから。

ああなったヒソカさんはわたしにも止められないし、そんなことをしたらきっとわたしまで戦いに巻き込まれる。いつもは蜘蛛のルールで『メンバー内での喧嘩禁止』とされてるけど今はそれも関係ない。ヒソカさんは常に旅団のメンバーと戦いたがっていたし、それはわたしも含まれていた。

「ぎゃああああ」
「いってぇーー!!」
「レオリオ!」
「ゴン!」

後ろから聞こえてきた叫び声。仲間の名前を叫んでゴンがくるりと向きを変えた。そのまま声のした方へと走り出す。キルアが名前を呼んでもゴンは振り返らずそのまま霧の中へと消えてしまった。

いつの間にか後ろの集団が少なくなっているし、あちこちから叫び声や猛獣の声が聞こえてくる。少し探るとヒソカさんの楽しそうなオーラと殺気。あーあ、と小さくため息をついた。

「ゴン行っちゃったね」
「アイツ…霧の中で離れたらもう追いつけないのに」
「鼻がいいって言ってたし大丈夫かもしれないよ?」
「そんな犬じゃないんだからさ」
「心配ならゴンのこと、追いかける?」
「…心配なんかしてねーよ」

少しだけ不機嫌になったキルア。わたしとしてはたとえゴンが失格になっても、もしヒソカさんに殺されたとしても別になんとも思わないのでそのまま試験官の後ろを走る。

なんとなく沈黙が気まずくなってえーと、と話題を考える。そうだ、さっきのお礼をまだ言ってなかった。

「キルアさっきはありがとうね」
「ん?なにが」
「ジュース!何か入ってたんでしょ?」
「あーまあね」
「毒、平気なの?」
「んー…なあ、マユも暗殺者なのか?」
「え?」
「ヒソカの殺気も気づいてたし、これだけ走っても汗ひとつかいてない」
「んーと」

どうやって答えようか悩む。キルアは真剣に聞いてきていて、変に答えて何かを勘付かれてもめんどくさい。

「まあ、そんなとこ。詳しくは話したらダメって言われてるからナイショ」
「そっか」
「も、ってキルアは暗殺者なの?」
「まあね」
「それでハンター試験受けてるの?」
「いーや。これはオレの勝手。オレほんとは暗殺なんてしたくないんだよね」

なんてイルミさんが聞いたらとてつもなく怒りそうなことをさらりと言った。「ハンターになったら一番最初に家族を捕まえるんだ」と笑うキルアにそれこそイルミさんが許さないだろうな。と心の中で呟いた。

「マユはイヤじゃねーの?」
「考えたことなかった」
「オレなんて毎日どうやって屋敷から逃げ出そうか〜って考えてるぜ?」
「じゃあいま家出中なんだ!」
「そんなとこ」

イルミさんが変装してハンター試験に参加してるのを知ったらキルア、びっくりするだろうな〜。でもあの見た目じゃ全然わからないし。でもそれをわたしがキルアに教えちゃったらイルミさんに殺されそうだし。ごめんね、キルア。と心の中で謝った。

「あのさ、マユは…友達とか…居るのか?」
「ともだち?」

キルアの雰囲気が少し沈む。ボソボソと言うので聞き返すと気まずそうな顔。恥ずかしいのか、辛いのか、苦しいのか、変な顔。

「家族はいるけど、ともだちはいないよ」
「…だよな」
「ねえキルアともだちってなに?」
「え?」
「家族と仲間はわかるけど…わたしともだちってよくわかんない」

だって流星街で気づいた時にはゴミだらけの中一人ぼっちだった。生きてるのか、死んでるのかもわからない街。クロロに見つけてもらえてなければわたしはきっとあのままゴミにまみれて死んでいた。

クロロがいて、蜘蛛のみんながいて、それで十分だから。

「オレだってともだち居ないからわかんねえよ…」
「ゴンはともだちじゃないの?」
「…会って少し話ししただけだぜ?」
「それじゃあダメなの?」
「いや、ダメじゃないと…思うけど」
「ふうん。じゃあキルアわたしともともだちになってよ」
「は!?」

ぎょっと驚いた顔でキルアが叫ぶ。あれ、何か変なこと言ったかな?知らないものは知っておいた方がいい。クロロにそんなことをよく言われた。だから文字の読み方、書き方も覚えたし。ともだちも、知らないならなってみればいい。

「ね、ともだち」
「あー…わかったよ。マユがどうしてもっていうから仕方なくな!」
「え、そこまで言ってない」

さっきまでの沈んだ空気はどこへやら。キルアはケラケラと楽しそうに笑った。わたしもつられて笑う。

「あ、そうだマユ!ゴンが帰ってこれるかどうか賭けようぜ」
「ともだちって賭けしてもいいの?」
「別にお金とか命賭けるわけじゃないからいいだろ!オレは帰ってこれない方に賭けるぜ」
「んーじゃあわたしは帰ってくる方!」

走りながら二次試験会場に着くまでキルアと二人でいろんな話をした。そのあと無事ついたゴンを見つけて顔を合わせて二人で笑う。このあと匂いを辿って追いかけてきた、というゴンの話を聞いてわたしはほらね、と得意げに笑った。


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