りとる×りとる | ナノ

 半人前の決心

みんなに認められたい
わたしだって、一人前だもん





―ザバン市

澄み渡る青空の下、
大勢の人がざわざわと行き交う広場。

慌ただしく歩く人ごみの中を、のんびりとしたペースで歩く変わった格好の二人組が居た。

「おーでーかーけー♪」

ルンルンと鼻歌を歌いながら
楽しそうに歩く少女…名前はマユ。

青空のような澄み渡る水色の髪の毛が風に吹かれてふわり、と揺れた。同じ色の水色の瞳はキョロキョロと辺りを見渡しては、街の様子を見たり、船を指さしたり、道を歩く犬に手を振ったり、楽しそうにキラキラと輝いていた。

白とピンク基調の膝丈のワンピース。あまり派手ではない程度にレースやフリルが施され、パッと見はどこかのお嬢様のような服装だ。白い靴下に赤いエナメルのパンプスで、今にも踊りだしそうなぐらいに足取りは軽い。斜め掛けしたワンピースと同じ色合いのショルダーバックからはちょこん、と可愛らしい犬と猫のぬいぐるみが頭を覗かせている。

「そんなに嬉しいのかい?◆」
「はい!」
「それはよかった◆」

隣りを歩く男が話しかけると
マユは嬉しそうに満面の笑みで頷いた。

それを聞いて男も満足そうに笑う。こちらの男もこれまた変わった格好をしていた。オレンジ色の派手な髪の毛をオールバックにしている。それだけでも十分派手なのにも関わらず、顔にはピエロのような涙と星のマークのメイクがされ、服装もトランプの柄が描かれた変わった服装。背はひょろりと高いのに、ガタイがよく筋肉で引き締まっている。

「ヒソカさんが手伝ってくれたおかげでお出かけできたので、感謝です!」
「バレたら怒られるだろうけどね◆」
「…うっ」

こっそりと抜け出してきたことを指摘されてマユはその可愛らしい顔をしかめた。それをみてヒソカはにんまりと目を三日月のように細めて笑う。

二人が並ぶと身長差や年齢の差もあってか、でこぼことして明らかに街の雰囲気から浮いていた。それもそのはずでこの二人、ただの観光客でもなければ一般人ですらなかった。

「でも今から行くのは買い物でもピクニックでもないんだよ?◆」
「もちろんヒソカさん、わかってますよー!」
「本当に?」
「はい!ハンター試験です!」

マユは意気揚々と答えた。
うーん…と困ったようにヒソカは笑う。

ハンター試験とはそんなに明るい話でもなければ、楽しそうに向かうものでもない。年に一度行われる、ハンター協会主催のハンターライセンス授与試験のことである。試験には毎年数百万人の参加者が集まるが、一人も合格者が出なかったり、死者が出たりとひどく過酷で困難な試験なのだ。

このザバン市にハンター試験の会場がある、という情報を仲間から手に入れた二人は試験を受ける為にこの街へと来ていたのである。

「…ほんとに黙ってきてよかったのかい?◆」
「うー…だってこうやってお出かけすることなんて、一回も許してくれたことないです。」
「心配なんだよ◆」
「…信用されてないんです、きっと」
「(過保護なだけなんだけどね◆)」

マユを過保護にしている男の事を思い出して、その心情をなんとなく察しているだけにヒソカは可笑しくて仕方がなかった。

マユはまだ10歳だったが、そこらの人間なんかには簡単には負けないぐらい強い。それもそのはずでマユはあの「史上最凶との悪名高いA級首の盗賊団」と噂されている「幻影旅団」のメンバーなのだ。

「…きっとわたしがまだ子供で弱いから、一人で仕事もさせてくれないんです」
「うーん…◆」
「だからハンター試験に合格したら、わたしも一人前だって認めて貰うんです!」
「そっか」

ぐっと、拳を握り締めるマユの頭をぽんぽんと優しく撫でるヒソカ。マユは少しだけむっとしながらも大人しく撫でられたままでいる。あまり子供扱いされたくないらしい。難しいお年頃なのだろう。

二人はのんびりと街を歩いていたがようやくあるお店の前で足を止めた。「めし処 ごはん」とハンター語で書かれている。どう見てもただの定食屋だ。

「…ここ、ですか?」
「うーん…シャルナークの話だとねぇ◆」
「ふーん?まあ、シャルが言うならそうなんでしょうね」
「そうだね、入ろうか◆」

中へと入ると香ばしい炒め物の香りが香ってくる。小さくお腹がぐぅ〜と鳴った音が聞こえてきたと思えばマユが恥ずかしそうに顔を伏せていた。

「いらっしゃい!お二人さんご注文は?」
「えっと…」
「ステーキ定食◆」

ヒソカがそう注文すると
ぴくり、と店主が反応した。

「……焼き方は?」
「弱火でじっくり◆」
「あいよー」
「はーいお客さん奥の部屋へどうぞー!」
「…◆」
「……行きましょうか」

二人で顔を見合わせてから案内されるままに、奥の部屋へと進むことにした。そこには鉄板がついたテーブルが置かれていて、大きな鉄板ではじゅうじゅうとステーキが焼かれていた。

無言で二人共席へと座る。すると、ウィーンと音がして下へと降りていく感覚。どうやらこの部屋自体がエレベータのようになっているらしく、どんどんと下がっていく。

「………」
「…食べたらどうだい?◆」
「っも、もったいないですよね!」
「そうだね◆」

じーっとマユが目の前のステーキを見つめていたのでヒソカがそういうと嬉しそうにステーキを食べ始めた。

「(こういうところはまだまだ子供っぽいよね◆)」

それを微笑ましく思いながら
ヒソカもステーキを食べ始める。

「ねえマユ◆」
「ひゃい、なんれふは?」
「…食べながら喋らない◆」
「んむむ…はい、なんですか?」
「念能力はあまり使っちゃダメだよ?」
「えーなんでですか?」
「そういうのは隠しておくものだからね◆最後のとっておきまで使っちゃダメ◆」
「んーわかりました」

大人しくヒソカの言うことに頷くマユ。またその小さな口でステーキを食べ始めた。これから試験だというのに緊張感もないようだ。

頬にステーキのソースがついていたのでヒソカが自分のナプキンで拭いてやる。大人しくされるがままになってもぐもぐと食べ進めるマユを見ながらヒソカは小さくため息をついた。

「(あー心配だなぁ◆)」

その無防備な様子に少しだけ心配になってしまう。さっき「過保護だ」と笑っていたのに、これでは自分も同じではないか、と気づいて失笑する。

「あ、でもそのぬいぐるみはそのままでもいいけどね◆」
「言われなくてもそうします」
「クックック…そうかい◆」
「あ、ヒソカさん!試験中はあんまりわたしに絡まないでくださいね?」
「なんでだい?◆」
「わたしまで変人扱いされちゃいます」
「………◆」


―チンッ

「あ!到着ですね!」

何か言ってやろうかと思ったがエレベータが止まって扉が開いたので諦めて椅子から立ち上がる。扉の向こうからは明らかに異質な雰囲気が漏れ出している。それにゾクゾクと興奮しながらも扉へと歩き出した。

ちらり、とマユを見れば
マユも楽しそうに笑っていた。

「行こうか◆」
「いざ、ハンター試験です!」




ハンター試験会場到着

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