20000hit企画 | ナノ

 暇人の厄介事



知らぬところで


朝の公園で素振りをするのが
最近の日課になっていた。

「ふんっ、ふんっ、ふんっ」

まだ日が昇ったばかりで空気が冷たい。

竹刀で素振りをしているから
むしろ暑いぐらいでちょうどよかった。

散歩やジョギングする人を
横目で見ながらひたすらに竹刀を振る。

「326っ、327っ、328っ」

もうすぐ大きな盗みの仕事があるが
それまではやることもなくて
暇だからメンバーはそれぞれ
好き勝手にこの街で過ごしている。

マチやパクのように買い物に興味はないし、だからといってフェイタンや団長のように部屋に篭っているのは性に合わない。

ウボォーやフランクリンは
まだ寝ているし、シャルは最近
団長が仲間にしたいらしい能力者に
付きっきりになっていて付き合いが悪い。

「342っ、343っ、344っ」
「ノブナガ様…!あっ、間違えました!ノブナガさん!」
「…おう、今日も早ぇなぁ」
「おはようございます!」
「おはよう」

明るい声がして振り返ると
暖かそうな服装に身を包んだ
少女がニコニコと笑顔で立っていた。

最近この公園で知り合った少女で
このぐらいの時間によく来るのだ。

手には魚が入った袋を持っていた。
またここの野良猫にあげるらしい。

(まーたノブナガ様って言いやがったこいつ…)

初めて会った時の事を思い出す。
あのときもこうやって素振りをしていた。


「お、おおお、お侍さんが、いいい、居る?!」
「ん?」
「あのっ、あのっ!日本…あっ、じゃなくて、ジャポンの方ですか?!」

いきなり話しかけてきたこいつは
目をまん丸にしながら
キラキラとした瞳で聞いてきた。

(侍が珍しいのか…?)

別に隠すことでもないので
正直に答えてやる。

「おう。そうだが…なんだお前?」
「わた、わたしも、その…一応ジャポン生まれで!」
「お、なんだそうだったのか!」
「はい!こっちに来てから初めてジャポンの方に会えました!!」

なんて嬉しそうに話すもんだから
こっちもなんだか嬉しくなって
なんだかんだ話すうちに懐かれてしまった。

「あの、お侍さんお名前は?」
「侍…じゃねぇけどな…ノブナガだ」
「の、ののの信長?!織田信長ですか?!」
「………はぁ?誰だそれ?」
「サ、サイン!じゃなくて…握手して下さい!!!」

「(どうしたらいいんだ)」

となんとも強烈な出会いだった。

そのあとオダノブナガという人とは
関係もないし、別人だ。と誤解を解いたが
事あるごとに「ノブナガ様」と呼んでくる。

恥ずかしいからやめろ、と
言ってはみるのだが
少女も無意識らしくなかなか
呼ぶのをやめないから困ったものだ。

(どっかの偉い人かなんかか?)

聞いたことのない名前だったが
少女曰く「すっごく偉い人です!」だそうだ。

侍、という見た目で
絡まれることは少なくないが
握手やサインを求められたのは
こいつが初めてのことだった。

「あれ…居ないなぁ…」
「ん、ああ…」

少女がきょろきょろと辺りを探す。
きっと野良猫を探しているのだろう。

噂をすればなんとやら、で
「にゃー…」と小さく
猫の鳴き声がして足元を見ると
いつの間にかオレンジ色の猫が
こちらを伺うように座っていた。

「おっ、"ひそか"じゃねーか。飯がやってきたぞー」
「……う、あの、その、ノブナガさん…」
「ん?どうした?」
「この猫の、名前なんですけど…"密"って書いて"みつ"って呼ぶことにしたんです…!」
「はぁ?なんでまた急に?」
「いや、その…えっと!みつの方が可愛くないですか?!ほ、ほらオレンジ色だから蜂蜜みたいな色だし!」
「いや、まぁ…お前が名付け親だからそういうならそれでいいけどよ…」
「そ、そうですか!"ひそか"!今日からお前の名前は"みつ"だからね!」
「にゃーん?」
「どうしても、みつじゃなきゃダメなの!」
「にゃー」
「ね?みつ、って可愛いでしょ?」
「にゃー!」
「うんうん、ね!」

みつ、みつ、と名前を呼びながら
一生懸命猫に話かける。

(…こいつは猫と会話できるのか。)

なんて呆れながらその様子をみる。

「よかった…みつって呼んでも反応してくれます!」
「ひそか、より気に入ったんじゃねーか?」
「そ、そうですかね…」
「にゃー!」
「ほら」
「え、ええ…ひそか、もいい名前だと…思いますよ?変態だけど…」
「変態?」
「あっ、いいいえいえ!こっちの話です!!」

不穏な単語に首を傾げると
少女はブンブンと首を振って
慌ててそれを否定する。

少し気になったがまぁいいかと
竹刀を再び構えた。

「あ、すみません…お邪魔しちゃって…」
「別に構わねぇよ」
「じゃあ、わたし朝ご飯用意しないといけないので!これで!」
「おう。気をつけてな」
「はい!ノブナガ様も…!」
「…だから様じゃねーって」
「あっ、ごめんなさい…!ノブナガさん、また!」
「おう。」

最後まで笑顔でニコニコと
手を振りながら去っていく。

笑ったり、慌てたり、驚いたり
焦ったり、謝ったり…忙しい奴だ。

(あいつみたいな明るい奴がメンバーに居たらなぁ…)

どうも団員はみんな一癖も二癖もあって
ああいう明るくて元気なタイプが居たら
もう少しよくなりそうなもんだ。

なんて、ありえないことを考える。

「な、どう思うよ"ひそか"」
「……にー」

その場に残っていた猫に話しかける。
と、耳を伏せて少し怒ったような声で鳴いた。

まるで「そんなことはありえない」
とでも言いたげに不機嫌そうだ。

「あ、わりぃな。お前の名前は"みつ"になったんだったなぁ」
「………」

呼び直してみたが反応もせず
すたすたと茂みの中へ消えていった。

「…ま、そりゃありえないよなぁ…」

そう誰にもなくつぶやいてから
竹刀を握りしめてまた素振りを再開した。




(再会はもう少しあとの話)
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