20000hit企画 | ナノ

 天邪鬼の暴走



何事も程々に



見ていて飽きない奴。

それがゆあへの感想だった。

シャルや団長は何か
思うところがあるらしいが
俺からしてみればそんな程度。

『喫茶店アンブレラ』は
昼過ぎというのもあって
客も少なくいつも通り静かだ。

「あ、フィンクスさん!」
「よっ」
「またサボりですか?」
「ちげーよ!ちゃんと仕事してるっつーの」
「えー?シャルがこの間ぼやいてましたよー?」
「…あいつ適当な事いいやがって」
「ふふっ、今日もランチですか?」
「あーそうだな頼む。」

『喫茶店アンブレラ』で
アルバイトをしているゆあ。

特に変わったところもない
普通のどこにでもいる少女だ。

明るく、誰にでも優しく、
抜けているようでしっかりしていて
自分の意見もちゃんと言う。

(そういうところは結構気に入ってるが。)

「そうそうフィンクスさん!聞いてくださいよー!」
「ん?なんだ?」

頼んだランチを持ってきて机に置くと
ゆあは向かいの席へと座った。

店長もそれに怒るどころか
気にせずカウンターで本を読んでいるし
相変わらずこの店はのんびりとしていて
店員も店長も自分勝手だな。と呆れる。

それでもなんだかんだ来てしまうのは
飯がうまいからとかそれだけではない。

ゆあと話すのは楽しいし
店がワケありというのもあって
来やすいというのもある。

(居心地はなんだかんだいいしな)

「ようやくみつが懐いてくれたんですよー!」
「みつ?」
「この前話した野良猫です!」
「あーそういや聞いたな、そんな話」

にこにこと、嬉しそうに話すのに
適当に相づちを入れながら
パクパクと食べ進めていく。

(割りとここのモンは何でもうまい)

ゆあは普通の少女だが前に格闘術を習っていると言っていた。それにハンターになりたい。とも聞いたことがある。

でも、それだけだ。

団長が言うような能力や
特別な何かがあるとは思えない。

目の前で笑う少女をちら、と
見るがやはり楽しそうに笑っていた。

(…わかんねーなぁ)

隠しているのか、とも考えたが
そんな雰囲気や仕草はない。

ゆあを説明するとしたら一言、「普通」

「オレンジ色のふわふわした毛並みでー顔はどちらかというとイケメンなんですけど!」
「へー猫にもそういうのあるのか?」
「ありますよー!」

猫、と聞いてふと前に団長がフェイタンと
話していたことをなんとなく思い出す。

少しからかいたくなってにやり、と笑う。

「猫っていやぁ…"シュレーディンガーの猫"ってゆあ知ってるか?」
「シ、シュレー?知らないです…」
「猫を使った実験なんだが…」
「実験…?」

詳しく話をしているとだんだんと
ゆあの表情が暗くなってくる。

(…わかりやすい奴だなぁ)

表情がコロコロと変わるところも
見ていて飽きないところではある。

「じ、実験…でみ、みみつ、が…」
「あー野良猫だし捕まって実験に使われちゃうかもなー」
「わ…わたし…行かないと!」
「あ、おい!」

ぶつぶつとつぶやきながら
バイト中だというのに
真っ青な顔で出ていってしまった。

(少しからかいすぎたかー?)

猫好きと言ってもまさか
こんな話を間に受けるとは思わなかった。

ゆあの姿を見送っていたが
後ろに気配を感じて振り返れば
すぐそばに店長、モアが立っていた。

(あ、やべぇ)

と悟ったがそれよりも早くガンッ!と
頭に強烈な一撃が繰り出された。

「いっ…てぇ…」
「ゆあに何言った?」
「いや、ちょっと猫の、シュレーディンガーの猫の話をだなぁ…」
「アンタねぇ…あの子が猫好きって知っててわざと話したでしょ」
「ちょっとからかうつもりだったんだがなぁ」
「あんまりゆあをからかうと怒るわよ?」
「…もう怒ってんじゃねーか」
「なに?」
「いーや、なんでも」

モアの鋭い視線から逃げるように
机に金を置いて立ち上がる。

ただの少女だというのに
モアも過保護にしているようだし
やはり何かあるのかもしれない。

(まあ、何かあったとしても俺には関係ない。決めるのは団長だ。)

「公園…そういえばフランクリンが行くとか言ってた気がするな…」

もしゆあと会ったら勘違いしそうだ。
見た目があんなんだし。
と考えたが、まあ、いいかと歩き出した。


(それはそれで面白そうだ)




*おまけ



その頃公園にはオレンジ色の猫に
懐かれて抱っこしていたフランクリンと
フィンクスの冗談を信じて
慌てて公園へとやってきたゆあが居た。

「………!」
「(……なんだ?)」

ゆあは猫を見つけると
嬉しそうな顔になったと思えば
フランクリンを見つめて青ざめる。

フランクリンはゆあの
ただならぬその様子に
猫を撫でる手を止めて首を傾げた。

「み、みみ、みつを離してください!」
「みつ?」
「そ、その猫の名前です…!」
「ああ。」

腕の中の猫をみる。

確かに蜂蜜のような毛色だ。
と柔らかい毛を撫でた。

「シュレーディンガーするつもりですか?!実験に使うんですか?!」
「…シュレー?」
「猫の実験です!よくわからないけど…酷いことするんですか?!」
「いや、そんなつもりは…」

泣き出しそうな表情で必死に
叫ぶゆあに困ったように
フランクリンは頬をかいた。

「にゃーん?」

それをなんだなんだ、と
まさか自分のことだとは思ってもない
猫、みつが首を傾げて小さく鳴いた。

その後誤解はちゃんと解けたが
店に戻ったゆあは店長モアに
バイト中でしょ!と怒られたらしい。

(フィンクスさん…今度会ったら唐辛子入りでランチを食べさせてやりますからね…!)

と心の中で誓ったのは内緒の話。



(今日も世界は平和です。)

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