倉庫 | ナノ

 しまった1



拾ってしまった。


久しぶりになんとなく
特に理由なく、意味もなく
流星街へと来ていた。

「此処は相変わらずだな…」

流星街はいつもゴミとガラクタと
死体で溢れかえっている。

酷い悪臭と腐臭。
夜だからか音もなく静かだ。

行くあてもなく適当に歩く。

別に何かしに来たわけでも
帰りたくなったわけでもなく
来たのは本当になんとなくだった。

「………ん?」

ゴミの山を歩いていると
ぽつん、と置かれた犬と猫の
可愛らしいぬいぐるみが目に止まった。

このゴミ山にしては珍しく
汚れも少なくて綺麗な状態。

こういう綺麗な物は貴重だ。

街へ行って売れば
少しばかりでもお金になる。

昔はゴミ山を駆け回っては
こういう物を探しは売り、
その金でなんとか生き繋いでいた。

「………」

今はもう必要ないが、
なんとなくそのぬいぐるみを
取ろうと手を伸ばす。

―ぐいっ ずる、ずるっ

「…ん?」

ぬいぐるみの割に
やけに重いな、と思ったが
思い切りゴミの山から引っ張り出す。

―どさっ 「う…」

と、一緒に少女がつれた。

「……う、う…」
「子供?」

ガリガリでやせ細った
とても健康とは言えない小さな身体。

あちこち泥まみれで汚い。

髪も薄黒く汚くなっているし
伸ばしっぱなしなのか
前髪が目にかかる程長い。

白い肌は切り傷や擦り傷だらけ。
服もボロボロだし靴も履いてない。

(俺も昔は…)

その姿に一瞬、自分の姿を重ねた。


「うー、うー」
「…ああ、すまん」
「………」

少女が唸る。

手元をみればぬいぐるみの
手をしっかりと握っていた。

どうやらこのぬいぐるみは
少女のものらしかった。

手を離すとそれを大事そうに
ぎゅ、っと抱きしめる。

「………」
「………」

少女がじぃ…とこちらを
警戒するように睨む。

(まあ、此処じゃあ無理もないか)

自分もそうやって育って
ここまで生き抜いてきた。

自分と仲間以外はすべて敵。
それ以外は存在しない。

長い前髪に隠れた少女の瞳が
月明かりで照らされて
その瞳の色に一瞬みとれる。

(…変わった色だな)

まるで空を映したような水色。
透き通る水面のように輝いていて
透明な空気のように澄んでいる。

ゆら、と少女の小さな身体が
揺れたと思ったら
崩れ落ちるようにいきなり倒れた。

―ぐら、 どさっ…

「おい?」

思わず手を伸ばして受け止める。

息はしていたので
生きてはいるようだった。

「………どうするか」

見捨てるか、
身ぐるみはがすか、
殺してしまうか。

昔はそれだけだった。

でも今はちがう。

「………はあ。」

ため息をひとつ吐いて
小さな身体を抱きかかえた。

思っていた以上に軽くて
腕も足も棒のように細くてぎょっとする。

「…何か食べ物と、着る物がいるか」

誰もいないゴミの山を
少女を抱えて歩く。

昔ならそのまま何もせず
この少女を見捨てていただろう。

(守るものが増えたからか…?)

自分を重ねたからか、
仲間を重ねたからか、

なぜ助けよう、
などと思ったかはわからない。

「まあ、いいか」

流星街に来たのもなんとなく
少女を助けたのもなんとなく

(暇つぶしにはなりそうだ)

空を見上げるとあの頃と変わらない
憎らしいほど綺麗な月が輝いていた。


(消えたぬいぐるみ)




[back]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -