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 しまった2



間違ってしまった


「うー!やー!」
「いいから大人しくしてろ」
「あー!」

強引に少女を風呂へと放り込む。
ざぶん!と水しぶきを上げて
バスタブから勢いよく水が溢れた。

バシャバシャと暴れる。

「うー!」
「洗うだけだから」
「あー!あ!」
「ちょっと我慢してろ」

と言ってはみるが
言葉が通じないのかそれ以前の問題か
なかなかいうことを聞かない。

無理やり座らせて頭を洗う。

ゴシゴシとシャンプーで洗っているうちに、少し落ち着いたのか大人しくなった。

はあ、とため息をついて
少女の頭を洗うのを再開する。

(…なんでこんなことしてるんだ、俺は)

自分で自分の行動に呆れる。

昨日の夜気絶した少女を自分が
泊まっているホテルに連れてきたはいい。

が、あまりにも汚いので風呂に入れていた。

泡がみるみる真っ黒になっていく。
風呂になど入ったことはないだろうし
こういう状況も初めてだろう。

「……ほお、綺麗な色だな」
「………」

洗って汚れが取れていくと
少女の本来の髪の色が現れてくる。

瞳と同じ透き通るような空の色。

あまり見たことがない珍しい色だ。
手にとってみると水のように軽く
サラサラと手から流れていく。

あまりにもおとなしいので
ちらり、と表情を伺うと
むすっとしたような顔だった。

「なんだ、嫌いなのか?」
「………」
「俺は綺麗だと思うけどな」
「……、」

そういうとぴくり、と少しだけ
肩を揺らして反応した。
どうやら言葉は伝わっているようだった。

体も洗ってやって風呂から上がる。

タオルでゴシゴシとふいてやると
その間ずっと大人しくされるがままだった。

それからドライヤーで乾かしてやる。
洗って綺麗にストレートになった
長い前髪がとてもうっとおしい。

まるでコルトピみたいだ。

(切るか…いや、でも刃物を見せたらまた暴れるか?)

少しだけ考えてから
とりあえず前髪を耳にかけてやる。

ようやく少女の顔を
まともにみることができた。

空色の瞳に同じ色の髪。

肌は日に焼けてはいるがそれでも白い。
顔立ちはまだまだ幼いが
十分に食べれてないからかやつれている。

「…腹は減ってるか?」
「………」
「…当たり前か。」
「………」

きょとん、と見つめ返される。

その瞳の色はまるで
引き込まれそうなぐらいに綺麗だ。

(…不思議な、瞳だな)

見ていると目が離せなくなる。
空を見ているような
底のない海底を覗いているような

そんな不思議な感覚。

「とりあえず、これを着ろ」
「………」
「飯は…適当でいいか」
「………」

少女が目を覚ます前に
買っておいた服を手渡す。

じぃーっとこちらを睨んだまま
大人しくそれを受け取った。

「その服はやる」
「………」
「靴もそこにあるから」
「………」

ホテルに備え付けられた
電話でルームサービスを頼む。

少女を見ると渡した服をのそのそと
ゆっくりした動作で着ていた。

隣には犬と猫のぬいぐるみ。

(………?)

なんとなく違和感を感じながら
コンコン、とノックが聞こえたので
すぐに扉へと向かった。

―はぐっ、がつがつ、バクッバクッ!

まるで動物のような食いっぷりで
目の前に並ぶ食べ物を少女は
ばくばくと、がつがつと食べる。

時折初めて食べる味か食感に
目を見開いて驚きながら
それでも食べるスピードは落とさない。

「…そんなに急いで食わなくてもいいだろうに」
「ううぅ、うう!」
「いやいや、口に物をつめた状態で喋られてもわからん…」

自分も流星街にいたときは
ゴミ山から食べられそうなものを
必死で探して、集めて、時には奪って。

仲間と分け合いながら食い繋いできた。

(こいつも必死に生きてる)

やはり助けなければよかったかもしれない。と、柄にもなく少しだけ後悔していた。

今日こうやって食わせてやっても
明日も、その次の日も
というわけにはいかない。

結局少女はまた自力で食べ物を探し、
自分一人で生きていかねばならないのだ。

(俺には、仲間が居た…)

目の前でばくばくと
パンにかじりつく少女をみる。

この少女は一人だ。

仲間はいない。
助けもない。
希望もない。

あるのはゴミの山だけだ。

(流星街がそういうところだということは、自分が一番よく知っている…)

「………」
「…ん?なんだ?」

気づけば少女がこちらを
じーっと睨んでいた。

見つめ返すと手に持っていた
パンをこちらへと向ける。

「…ああ、俺はいいから」
「………」
「朝はそこまで食べないんだ。だから全部食っても構わん」
「………」

そういうと少しだけ少女の表情が
柔らかくなったような気がした。

だけどそれは本当に一瞬で、
またすぐに食べるのを再開してしまう。

(…気のせいか?)

そのあとも勢いよく食べて
気づけば頼んだ料理のほとんどを
少女一人で食べてしまっていた。

どれだけの間食べていなかったのだろう。

それに同情はしなかったが
それがどれだけ辛いかは知っている。

(こいつを助けて、本当に良かったのだろうか…)

ウトウトと、ベッドの上で
眠たそうに目をこする少女を見つめる。

それを見ながら自問自答を繰り返した。



(重なるかつての自分)



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