※スキンシップじゃなくてセクハラです
「やあ◆」
「………」
「んー相変わらず冷たい◆」
「………」
「オハヨウ◆」
「…えーっと」
「あ、寝癖◆」
―バキッ!
「んー痛いじゃないか◆」
「痛くしたんです触らないでください何してるんですか変態ピエロ死んでください」
朝。なんていう最悪の目覚め。
「(変態きもいうざいああもう最悪…)」
新しく買った目覚まし時計の
うるさいアラームで起きるはずが
変態ピエロの朝這いで朝を迎えた。
「オハヨウ◆」
「…どいて出て行ってていうか今この場で倒す殺す切り裂いてあげます」
「怖い怖い◆」
護身用にと枕元に忍ばせておいた
ナイフを変態ピエロ、もとい
ヒソカの鼻先へと向ける。
それを見てニヤリと目が
三日月のように細められた。
「喜ばないで下さい気持ち悪い」
「一度本気のキミと戦ってみたいんだよね◆」
「依頼以外では戦いたくありません」
「じゃあ"ボクを殺せ"、って依頼すれば殺ってくれるのかい?◆」
「………」
絶句。
覆いかぶさるように
私の上に乗っている変態。
暗殺の仕事でたまたま出会い
何故か気に入られ
いつの間にか家を調べられ
まとわりつかれこの様。
「(鍵…新しくしたんだけどなー…)」
ぎらり、と鈍く光るナイフ。
本当に刺してしまいたいくらいだ。
だけどここは私の寝室で
お気に入りのふわふわの布団で
それが変態ピエロの血で
汚れてしまうのはとても嫌だ。
「どいてください」
「ん◆」
とりあえず言ってみると割りと
素直にどいてくれたのでナイフをしまう。
寝起きでパジャマだし
寝癖ひどいしすっぴんだし
徹夜明けだからくまもひどい。
「(私だって一応そういうのは気にする女なのに…ああもう…)」
とりあえず顔を洗おうと洗面台へと向かう。
なぜかついてくる変態。
振り返って睨んでもニコリ、と笑うだけ。
「朝食ボクまだなんだ◆」
「へえ」
「近くの喫茶店でも行かないかい?◆」
「嫌です気持ち悪い」
「んーじゃあ、家でいいか◆」
「…なんで一緒に食べる前提なんでしょうか気持ち悪い」
「一人より二人の方がいいだろ?◆」
「そうだとしても貴方と一緒は嫌です気持ち悪い」
気持ち悪いが語尾みたくなってるよ◆
なんて笑う。誰のせいだと思ってるんだ。
ほんと、朝から最低最悪ありえない…
「朝は食べない派かい?◆」
「…そういうわけではないです」
「そっか◆」
「あの…とりあえず、シャワー浴びたいので死んでください」
「◆」
変態を洗面所から追い出す。
鍵をしっかりかけて
何かあったときのために
愛用の銃をすぐ傍に置く。
「(はあ…こんな暗殺ばかりやってる寂れた女の何がいいんだか…)」
シャワーを浴びながら鏡を見る。
睡眠不足で少しやつれた顔。不細工。
あの変態、見た目は割りといいし
言動と行動とあのメイクと
あの服装を変えれば…
とそこまで考えて全部だわ。
と気がついた。やっぱ変態はダメね。
「(どうやって追い返そうかな…)」
なんて考えながら
最近TVでオススメされていた
シャンプーで髪を洗い
トリートメントも使う。
匂いが甘ったるいのが
ちょっとだけ残念だけど
うねっていた私の髪の毛も
綺麗にまとまるから気に入っていた。
「(ま、適当になんとかしよう…)」
頭も冴えてきたので
バスルームからでて適当に服を着る。
「あれ、意外と早いね◆」
「……やっぱりまだいるよね」
「朝ごはん食べるだろ?作っておいたよ◆」
「だから一緒には…って、え?」
作った、という言葉に驚く。
机の上をみると目玉焼きやトーストが
ホットコーヒーと一緒に置かれていた。
「(いやいや、なに勝手に冷蔵庫開けてるのよ…ってうわぁ、半熟で美味しそう…ってそうじゃなくて!)」
とりあえずぎろり、と睨めば
相変わらずの笑顔のまま。
椅子を引かれて座るように促される。
「わたし、誰かさんみたいに毒は無理なんですけど」
「毒なんて盛ってないよ◆」
「…わからないじゃない」
「じゃあ先にボクが食べるから◆」
「………」
そう言われてしまえば
なにも言い返せなくなって
諦めて食卓へとついた。
「じゃあ、イタダキマス◆」
「…はあ」
当然のように目の前に座って
当たり前かのように食べ始める。
「(おかしいなあ…追い出すつもりだったのに…まあ、この美味しそうな半熟の目玉焼きがいけないのよね…)」
と目の前のタマゴのせいにして
ヒソカが食べたのをみてから
一口、ぱくりと食べる。
とろり…と黄身が溶けて美味しい。
「…料理できたんだ」
「まあね◆」
「…完璧主義ってやつ?」
「んーどうだろう◆」
「…ヒソカってやっぱムカつく」
「それは褒め言葉としてとっていいのかな?◆」
「そういうのはご都合主義って言うのよ」
「ククク◆まあそれは間違ってないね◆」
コーヒーもなんだか自分が淹れるのより
美味しい気がしてそれが余計にむかつく。
「このあとデートでもどう?◆」
「嫌です。」
「冷たいな◆」
「何が楽しくて変態ピエロなんかと折角のお休みを一緒に過ごさないといけないの?」
なんの罰ゲームよ、それ。
絶対ありえない!
「そんなことするならまだイルミさんと一緒に居た方が…」
―すっ
「なんかいい匂いがするね◆」
「…は、え…ちょ」
「んーシャワー浴びたあとだからかな?◆」
「っ…この!なにしてっ!」
気がつけばヒソカが
いつの間にか隣りに座っていて、
髪の毛を人束つかんで匂いを嗅いでいた。
そのまま遊ぶように指先で
くるくるといじる。
「セクハラで訴えるわよ!」
「ただ髪の毛触っただけじゃないか◆」
「変態が触ればどこでもセクハラになるの!」
「ひどいなあ◆スキンシップなのに◆」
「犬とでも戯れてなさい!」
ヒソカの髪の毛をいじっていた手を
思い切り叩いて払いのける。
…全く、油断も隙もないんだから。
しっし、とあっちいけと言わんばかりに
手で払うとすんなり離れた。
はあ…とため息をついてから
コーヒーにミルクと砂糖を入れて飲む。
「片付けるね◆」
「……ん。」
ヒソカが食べ終えたお皿を持って
台所へと向かう。
ていうか…私の家なのにお皿の場所とか
フライパンの場所とかよくわかったわね。
朝食を作ってくれたのはありがたいが
不法侵入の上、朝這い。セクハラ。
お礼を言おうかと思ったけど
それもなんかむかつくのでやめた。
「(ほんと…変態ピエロめ…むかつく)」
もう一つため息をついてから
コーヒーを飲み干した。
―カチャカチャ…
食べ終えたお皿を片付けながら
ヒソカはふう…とため息をついた。
「(ホント…難しいなあ…◆)」
ボクとしては素直に好意を
現しているつもりなのに
なかなか彼女は振り向いてくれない◆
「(嫉妬…なんてボクらしくない◆)」
ほかの男の名前が彼女の口から
出た瞬間、どく…と心臓が騒いだ。
ざわざわとして…苦しくて仕方ない。
「(さあ…どうやって落とそうかなぁ…◆)」
なんてこの先のことを考えてると
飲み終わったマグカップを持って
台所へと入ってきた。
「…ん」
「はいはい◆」
差し出されたので受け取って
お皿と一緒に洗う。
「(こういうことしてアゲルのもキミだけなんだけどなぁ…◆)」
「…ヒソカ」
「ん、なんだい?◆」
「…お礼は言わないけど、美味しかったわ」
「ん◆それはよかった◆」
「しょうがないからお昼までは居ていいわよ」
「…!」
「その代わりに近づいたら即出て行ってもらうからね」
「わかったよ◆」
それだけ早口に言って
さっさとリビングへと戻ってしまう。
「(ッククク◆少しぐらい期待してもいいかな?◆)」
(ねえ、明日は暇かい?◆)(次話しかけたら殺すからね)(…◆)
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