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 ずるいのは









「クロロー」


コンコン、とクロロの部屋のドアをノックする。
数秒耳を澄ませてみるが返事はなかった。

クロロの部屋にはたくさん本があるから
今日一日本を読んで過ごすつもりだった。

他の団員はみんなお仕事で
早い時間からでていたし、
最近は大きな仕事がないから
ホームにいない人だっている。

特にすることもないし、
自分の家もないわたしにとっては
ホームが居場所で、家だった。


「いないのー?」


返事がないのでもう一度ノックする。
…反応はない。うーん…どうしよう。

試しに扉を押すとギィ、と開いた。



「入っちゃうよー」


もちろん返事はない。
まあ、いつも勝手に入ったりしてるから
いいかなーとそろり、と中に入る。

部屋の中はしんと静かで
いつもクロロが座ってる椅子も
いまは寂しげにみえた。

なんとなくクロロがいないのに
悪いことをしているような気分。

そろそろと音を立てないようにする。


「えへへ」


クロロがいつも座ってて
座らせてもらえない椅子に座る。

背もたれが大きくてふわふわで
身体をすっぽりと包む。

クロロにはちょうどいいかもしれないけど
わたしにはちょっと大きいかな…

でもなんだかえらくなったみたいで
なんというか優越感…?


「んー」


もぞ、と動くとなんとなく
クロロの匂いがした気がして笑顔になる。

甘い香水の匂いと、クロロの匂い。
ぎゅーっと抱きついたときみたいに
ふわ、と香って椅子に深く座る。


…ってわたしこれじゃ変態みたい!

慌てて本を取りに立ち上がる。
適当にまだ読んでなかった本をとって
また椅子へと戻ってくる。

ぼふっ、と座り直してから
持ってきた本を開いた。

クロロが帰ってくるだろう
時間までここで過ごさせてもらおーっと。


本当はクロロと一緒に過ごしたかったのに…

なんてちょっと寂しくなる。
わたしを拾ってここに置いてくれている。
クロロはわたしのすべてだった。


「ダメ…わがままは、ダメ」


ずっと一緒に居たい、なんて一瞬頭をよぎる。
でもそれはクロロの邪魔になるだけ。
迷惑はかけたくない。嫌われたくない。

不安を忘れてしまおうと、
そのまま本の物語の世界へと入りこんでいった。







「ふう」


日もすっかり沈んだ夜。
ようやくホームへと帰って来れた。

辺りはすでに暗く、少し肌寒い。

今回はほとんどのメンバーが集まらず
一人で盗みに入ったのもあって疲れていた。


廃墟の中へと入っていくと
やはりほとんどのメンバーが
でているからかしん…と静まりかえっていた。


「…珍しいな」


いつもだったらすぐにゆめが「おかえりなさい!」
と笑顔でぱたぱたと走って
出迎えてくれるのにそれが今日はなかった。

静かな建物の中を進む。

ゆめの部屋を覗いてみたが
電気もついていないし寝てもいなかった。
外にあまり出ることがないゆめが
一人で出かけていることはなさそうだが…


「ああ」


自分の部屋の前にきて
中に人の気配を感じて察した。

また勝手に入ったのか。

他の団員は滅多に部屋に入れないが
ゆめは特別だった。

中に入ると電気はついていなかった。
ん?と思いながらゆめの姿を探す。



「……器用に寝るな」


机に近づくとゆめはすーすーと
小さく寝息を立てて寝ていた。

いつも自分が使っている椅子の上で
小さい身体を器用に丸めて寝ていた。


「まるで猫だな」


飼い主の椅子に座るなんて悪い子だ。
なんて思いながらも笑みがこぼれる。

机の上には何冊か本が置いてあって
今日一日ここに居たのだろう。


「ゆめ…」


ふと、身体を揺らして起こそうと
思った手を止める。
そのままゆめの頭を撫でる。
すーすーと規則正しい寝息。

起きる様子はない。

そのまま頬へと手をすべらせる。
柔らかくてすべすべの肌。
少し堪能しているとくすぐったいのか
ん…と小さく息をもらす。


その声がいつもとは違う
少し艶のあるトーンで、
自分の中の何かがぐら、と揺れた。


「いやいや…なに欲情してるんだ俺は…」


確かにゆめは綺麗だし、可愛い。
中身も見た目通り綺麗で素直で。
でも手を出したことはなかった。

女たらし、なんてメンバーに言われることも
あったりするだけに自分からしたら珍しいことで。


「(まあ、むしろ我慢してる方だからな)」


すーすーと無防備に眠る
ゆめの寝顔を眺めながら苦笑する。

ゆめは素直に自分のことを
好きでいてくれて、むしろ依存しているくらいで
だからこそ、手を出してしまったら
ゆめを壊してしまいそうで、壊れてしまいそうで。


「(とりあえず、ベッドに寝かせるか)」


風邪を引くと俺のせいで風邪を引いた、
とマチやパクノダがうるさいだろうからな。

他のメンバーもゆめには優しいし甘い。

そうっとゆめを抱き上げる。
小さくて細い身体。
あまりに軽くて少し力を入れたら
折れてしまいそうだった。


優しく姫抱きする。
ふわ、とシャンプーの香りが香った。


「(…ベッドに寝かせるだけだぞ、俺。)」


自分に言い聞かせながら
ベッドがある部屋へと向かう。




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