だんだんと人気がなくなってきた。工場が立ち並んでいて煙がすごい。どこかで重機が動いている音がしてなんだか落ち着かないところだった。
「絶」
「はい」
イルミさんの気配が一気になくなる。わたしも絶を行った。…いよいよか。人気のない工場の影に隠れるとイルミさんが少し遠くにあるビルを指差した。
「あそこ」
「…はい」
10階建てぐらいのビル。看板などはなく、至って普通だ。入口には二人、警備員らしき人が立っていて工場ばかりのここで、少しだけ浮いていた。
「たぶんほとんどが銃を使ってくる」
「………」
「ま、念で強化すれば問題ない」
「…はい」
いつだったか修行で銃を使ったことがあった。一通りの操作方法と対処方法。念で体を強化してしまえば銃弾を跳ね返せてなんだかロボットにでもなった気分。
「もし生き残ってる奴がいたら殺しておいてね」
「…わかりました」
「もし一人でも残せば、そこからまた復讐や報復にやってくる。そしたらヒソカに迷惑かかるからね」
「…はい」
その言葉はいまのわたしにはかなり効いた。そう…甘いことなんて言ってられない。殺さなければ、殺される。失敗すればヒソカさんに迷惑がかかる。そうなったら元も子もない。
「じゃあ10分後ね」
「…はい。イルミさん。」
「なに」
じ、とみるといつもの無表情。喉まででかかった言葉を言おうかやめようか悩んでやっぱり口にした。
「気をつけてください。」
「……ほんとゆあは変」
「どうしてですか…?」
「俺なんかの心配するからだよ」
「わっ!」
デコピンを頂いた。
…痛い。しかも鼻って…痛い。
「今は自分の事だけ考えろよ」
「……だって」
「あーはいはい。いってくる。」
反論は言わせてもらえなかった。一瞬で目の前にいたイルミさんが消える。ビルに目を戻すとすでに警備員が二人ぐったりと倒れていた。
…さすがイルミさん、早いなあ。
「…ここからだ」
拳をぎゅっ、と握った。ビルの最上階を睨む。あそこにターゲットがいるだろう。不思議と怖くなかった。緊張はもちろんしてるけど。
耳を澄ませるとかすかに銃声と人の叫び声が聞こえてくる。…イルミさんだろう。
「わたしの勝手な自己満足でいい」
「それでも、ヒソカさんの役に立ちたい」
例えこの手を赤く染めてもそれでヒソカさんと同じ立場に立てるならそれはそれで悪くないな、なんて…。
「わたし、変、だよね」
早く終わらせてヒソカさんに会いたいな。変態だし、セクハラしてくるし気持ち悪いこと言ってくるし変態だけど。
「ヒソカ、さん…」
大切な人。
もちろんイルミさんも。
二人が教えてくれたこの力で。
二人の役にたとう。守ろう。
ビルをもう一度睨んだ。