新しい街のホテル。前と同じように広い。すでに荷物は運び込まれていたが、ヒソカさんの荷物だけで
自分の服がないことに気づいた。
「あれ、なんか荷物少ないですね?」
「んー今回はね、ちょっと大きい仕事があるから。ここはあくまで囮なんだよね◆」
「囮?」
「そ。だから泊まるのはまたちがうとこ◆」
ヒソカさんはタオルをだしたり
ベッドを少し崩したりと小細工している。
「ボクがいない間に襲われても困るしね」
「……足でまといですみません」
「そうは言ってないよ◆」
「…がんばって強くなりますね」
「そう◆いい子」
頭を撫でられた。くすぐったさと気恥ずかしさで顔が熱くなる。
「さ、じゃあ行こっか」
「はい」
そのままホテルをあとにした。
まだわたしは念の基礎と筋トレ。
この二つしかやってないので
身を守るすべなんてない。
ペンダントの念が守ってくれるかもしれないが自分が弱ければ意味がない。今の自分が戦ったとしても生き残れる可能性は低いだろう。
「(迷惑かけてばかり…)」
自己嫌悪に陥りそうになるが我慢した。
山の麓までタクシーを使い、そこからはひたすらに森の中を歩く。こんなところにあるのかと疑うほどに木々は深くお生い茂っている。
「ここ…ですか?」
「うん◆」
わたしが驚いたのにはワケある。
どんどん街から離れていったかと思えば鬱蒼と木々がお生い茂る森の中にそのホテルは建っていたからだ。
「…これ、大丈夫なんですか?」
「うん。ちゃんとしたホテルだよ◆」
「……廃墟ですよね?」
「こらこら◆」
ボロボロに崩れたコンクリートよくみると窓ガラスもところどころ割れてる。入口の上にはかすれて読みにくいが確かに「hotel」の文字がある。
「なにか出ませんか…?」
「おばけ苦手かい?」
「……別に苦手ではないです。ちょっと、少しだけ、ほーんのわずかだけ、嫌いなだけです…」
「はいはい◆」
ニヤニヤ笑われた。…しょうがないじゃん。
女の子は大体おばけが嫌いなんだから!
ヒソカさんが歩き始めたのでついていく。
やだなーすっごいボロボロだよー
なんかあそこの窓…っはあ、カーテンか。
カウンターらしきところで止まる。
はっ、そこの柱の後ろ…?!
…気のせいか…びっくりした…
―ちりん…
「マスターいる?」
「…なんだ、ヒソカか」
マスターさんと呼ばれた人は
白いヒゲが凛々しいダンディーなおじさまだった。
ヒソカさんをみてため息をつく。
知り合い…なのかな?
「お世話になるよ◆」
「…お前も変わらないな。ん?そっちのちっこいのは?」
「拾い物◆」
「はあ?」
眉をひそめてこっちをじっとみてくる。
まあ…ヒソカさんと一緒にいるのが
わたしみたいな女の子だったら驚くよね…
しかもヒソカさん拾い物って…
いや、まちがってない…ないけどさあ!
とりあえず、自己紹介しなくちゃね。
「えっと、拾い物…のゆあです。」
「…クックックッ◆」
「…………おいおい」
あれ?わたし変なこと言ったかな?
ヒソカさんは笑ってるし
マスターさんが呆れたようにため息をつく。
あれ?…なんか間違ったかな…
「ヒソカ、変に育てるなよ」
「心外だなあ◆ちゃんと育ててるよ?」
「オレが言ってるのはまともに、ってことだ」
「んーそれは難しいなあ◆」
拾い物に始まり育てるって…
わたしはペットかなにかか!
とつっこみたかったけどやめた。
「部屋は三階の一番奥だ」
「はいはい。ゆあ行くよ◆」
「あっ、はい!」
すれ違う前にマスターさんにお辞儀して
ヒソカさんのあとをついていった。