くろあか | ナノ

 五十話 探りあい



「今回の仕事について、話してくれ。イルミもカルトもほとんど状況を把握していないのだ。」とシルバさんに言われありのまま、起きた出来事を順に話していく。

屋敷に侵入した時の事。あまりにも静かで人の気配がしなかった。ターゲットであるロルベリア当主が現れた時の事。初めは普通に振舞っていたが全身血塗れで、人が変わったかのように笑い可笑しくなっていた。

イルミさんが毒によって操られていた事。彼の能力『血飛沫の泡-ブラッド・ゲンガー-』でイルミさんが操られ、カルトちゃんがやられ、自分も身動きができない状況だった。

少しずつシルバさんの質問に答えながら話していく。

途中イルミさんに伝えられたであろうメイドさんが食べ物と飲み物をワゴンで運び入れてくれた。まだ食欲はあまりなかったし、シルバさんが居る目の前で食べるのも悪い気がして一緒に持ってきてくれていた食べ物は断ってお茶だけをいただくことにした。

温かいお茶を飲み、お互いに一息つく。

「―…それで、お前はどうやってイルミの”毒”を解いたんだ?特質系と言ってもお前は「除念師」ではないだろう?相手の念を解除することはできなかったはずだ。」

きっとこの辺りが今回の本題なのだろう。明らかにシルバさんの雰囲気が変わった。シルバさんやイルミさんのご家族にはわたしが特質系であることも、すべての系統を扱うことができることも、詳しい能力についてもすでに話していた。もちろん”緋の眼”を持っているということもだ。

ゾルディック家に対して秘密にすることはなんの意味もなさい。例えわたしが緋の眼を発動して100%力を引き出せたとしても彼らには到底敵わないからだ。

そんなものを使おうと、使わまいと関係ない。その前に殺されてしまうのが関の山だ。だったら隠すよりも事情を説明し修行に役立てたいと、そう思ったのだ。

結果わたしは以前よりも体力的にも、体術的にも強くなったし、もともとが甘かった基盤を鍛えることによってさらに念の質は上がっていた。それはあの屋敷でアレンと対峙した時にはっきりと感じていた。

「ロルベリア家当主―アレンは操作系の能力者でした。」
「『血飛沫の泡-ブラッド・ゲンガー-』だったな」
「はい。「視覚」「嗅覚」「触角」「聴覚」「味覚」そのどれかに触れてしまった瞬間に発動する―「毒」と本人が言っていました」
「ふむ…それならば毒が効かないゾルディック家だろうと、操れてしまうだろう」
「わたしはたぶん、彼が全身に浴びていた血の匂いを嗅いでしまった為に体の自由を奪われてしまったんだと思います」
「なるほど嗅覚から…厄介な能力だな」
「でも彼は人を完全に操れるのは一人だけ。という制約が合ったんだと思います。カルトちゃんを操らずに気絶させていましたし、わたしのことも動けなくする程度で操ろうとはしませんでした」
「”制約”と”誓約”だろうな」
「だから”毒”を解くことは難しくても、意識をイルミさんからわたしへと移させて制御を甘くさせることができました」
「ほう」

興味深そうにシルバさんが笑う。

「わたしの能力である『ささやく妖精』は音の攻撃です。超音波のようにして相手に気付かれずに対象にだけ声を届けたり、逆にオーラだけを飛ばすことも可能です。だからアレンがわたしへと攻撃を仕掛けてきた瞬間に、イルミさんに対してオーラを飛ばしました」
「ほう」
「…飛ばしたオーラは操作系の念を込めたオーラでした。成功したからいいものの、まだまだ未熟な技です。もしも、もしも失敗していたら…どうなっていたかは…わかりません。…すみませんでした」

目的であるアレンの殺害には成功したが、あまり胸をはれるような結果ではない。操作系の能力はまだほぼ使えない状態だったのだ。それなのに使った。

失敗していたらイルミさんは…そう考えてギリッ…と唇を噛みしめる。シルバさんはそんなわたしの心境を知ってか知らずかふっ、と柔らかく微笑んだ。

「いや、結果三人共大きな傷もなく帰ってこれたんだ。問題ないだろう」
「そ、そういえばカルトちゃんは…?」
「カルトももちろん無事だ」
「よかった…!」

気絶させられただけだったが、カルトちゃんも無事のようで安心した。動けるようになったら会いに行こう。

「なるほど。今回の件。君には礼を言おう。」
「い、いえ…わたしは!」
「ロルベリア一家という家族同士の戦いに巻き込み、そしてイルミもカルトも助けられたようなものだ。礼を言う」
「そんな…わたしは、そんな大層なことは…」
「まぁ、こんな結果になるとは思いもしなかった。むしろ足手まといになるのでは、と心配していた者も多かったさ。でも逆の結果になった。皆もこれで君のことを受け入れるだろう」
「…!」
「長話になってしまったな。ゆっくり休むといい」
「…何から何までありがとうございます」

シルバさんが部屋を出て行って、ほっと息をつく。一言、一言。言葉を発する度に。瞬きをする度に。息をする度に。全ての挙動を監視されているようで。

(…本当に怖い人だ。もし失敗していたらわたしは殺されていただろうし、成功した今も…まだ…。)

イルミさんが連れてきた”異例の人物”として見られているのだろう。そんな噂はあちこちから聞こえていたし、ゴトーさんにも釘を刺されていた事だ。

(わたしはここでも殺される心配をしないといけないんだ…)

ヒソカさんの側にいてもいつか飽きられたら殺されるんではないか。という心配をして。イルミさんの側にいてもゾルディック家の邪魔になるのでは。と疑われ。

「やっぱりどこにも居場所…ないなぁ…」

ぼふっ、と柔らかい布団に埋もれて目を瞑る。

「強く…ならないと…」

もっと強くなって殺されないように。
もっと強くなって居場所を作れるように。

「……まだ、死にたくない」


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