くろあか | ナノ

 四十九話 忘れてしまうことも



「妹クンはとりあえず…うん、気絶しておいてもらおうか」
「―っぐ」

アレンが軽く指を動かすとそれに連動してイルミさんが動く。カルトちゃんの首の後ろをとん、と軽く叩いて気絶させてしまった。そのままカルトちゃんの身体が床へ落ちる。

前へと踏み出そうとして少しだけ身体が動くようになっている事に気がついた。毒が薄れたのか、身体が少し慣れたのか、どちらにせよこのままもう少し身体が動くようになるまで時間を稼ぎたかった。

「毒は、効かない、はずじゃ…っ」
「ん?効くよ。当たり前じゃないか。彼らだって人間だよ??機械じゃない。毒だってそりゃあ効くに決まってるだろう?」
「だ、て」
「ゾルディック家は毒に慣れている?」
「!」
「それはただ単にありとあらゆる毒を飲み、抵抗をつけてそうなっているだけにすぎない。僕らの血は”毒”は、世界中どこにもない、存在しない毒なんだ。―”成長し続ける毒”」

アレンが話を続ける。その間に気づかれないように身体の調子を整えていく。

「(うん、40%ぐらい…かな)」

身体が動かないということはオーラの制御もできないということだ。少し自由は利くようになっていてもたかが40%程度でアレンに勝てるとは思えない。

「(何か、どうにか、しないと)」

イルミさんは操られているしカルトちゃんも動けない。最悪、カルトちゃんもアレンに操られる可能性もある。

「(まずはアレンの話を聞いて、少しでも、時間を稼がないと)」

訝しむような仕草でアレンを睨む。するとイルミさんとカルトちゃんの二人を手中に入れて少し余裕が出来ているのか、アレンはニコニコとしながら話を続けた。

「僕たちの毒はね、細胞の一つ一つ。常に進化をしているんだ。わかるかい??体中の血がざわざわと蠢いて、荒ぶって、高熱を出したり、鋭い痛みが全身を嬲ったり、頭を掻き回されるように耳鳴りが響いて…そんなのが毎日。毎日。毎日

毒人間。そう言ってボクらは虐げられてきた。触るな、近寄るな、動くな、喋るな、気持ち悪い、汚らしい、穢らわしい…そうやって畏怖され、嫌悪され、隔離され、人を殺す時にのみ、他に必要とされる存在。

その孤独が、辛さが、誰にも分からない。妹とボクにしか、わからないんだ!!

なのに!なのに妹は死んでしまった!!!

殺されたんだよ!!!」

「…!」

―殺された。

誰にも愛されず、疎まれ。
人を殺す。その為だけに生き。
果てには殺された。

アレンの妹。

一瞬だけ、同情してしまいそうになって慌ててその感情を消し去った。

「妹は、妹は、こいつに、イルミ=ゾルディックに殺されたんだ!!!」
「っ!」

想像もしていなかった言葉に頭がぐわん!と揺れた。イルミさんが、殺した?アレンの妹を…?悲しみに、怒りに顔を歪めてアレンは力任せにイルミさんを殴る。止めようと動いた足を慌てて止めた。

「(今、はっ…まだ、早い…!!)」

まだ身体の調子が戻っていない。感情に任せて動けば、やられてしまう。イルミさんを数度と殴るアレンを睨みながら、耐えた。

「妹はっ、はあ、はっ、コイツのことを、好いていた!!」
「…!」
「幼い頃、約束をした。と、いつも思い出話のように聞かせてくれた!」

『兄さん、兄さん』
『ん?なんだい?』
『まだ、約束の日は来ないのね』
『…またアイツの話かぁ』
『だってね、約束してるのよ。大きくなったら、って』
『もう忘れているかもしれないよ』
『…そうかもしれないわね』
『それでもまだ”約束”を信じるのかい?』
『ええ。もちろんよ。だって私はあの人の事…―』

アレンがイルミさんを殴る。何度も。
殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。

飛び出したいのを、止めたいのを堪えて歯を食いしばって、拳を握りしめて耐える。

「こいつは!こいつは!こいつはっ!妹との”約束”を忘れてたんだ!!「約束?なんの話?」なんて!!!まるで何も、何も、何もないみたいに言ったんだ!妹は、それだけを頼りに、生きていたのに!!!

妹は、妹はっ、”約束”を忘れられてもコイツの事を好きでい続けた!!!そのあと政略結婚させられて、名前も知らないようなマフィアに嫁いで、人を殺すためだけに使われて、利用されて、扱われて!!!そして死んだんだ!!!!

コイツのせいで!コイツのせいで!!コイツのせいで!!!」

イルミさんは動かない。アレンに殴られて血まみれになって、それでも未だに人形のように動かない。

―もう、我慢できなかった。

「…イルミさんは、悪くないです」
「………はあ???」
「悪くない、何も!」
「あははっ、キミも、キミもそんなこと、言うんだね!!!」
「誰も、悪くないんです」
「だから”しょうがない”…ってぇ???」
「―っ!」

ざわり、と何か頭の中を嫌な記憶がよぎったような気がして言いようのない悪寒が背中を走る。

「あははは、ふぅん?なるほどね??キミも”忘れてる”んだねぇ??」
「何、を…わたしは、忘れて…なんて」
「本当に???」
「っ」
「大丈夫、思い出させてあげるからね?」
「―!!?」

いつの間にかアレンがすぐそばに立っていて、その真っ赤な血に染まった手がわたしの頭を掴んで―…

―ビリビリッ 
「いやああああああああああ!」
「”悪夢”は思い出せたかな???」

にっこりと、悪魔のようにアレンは嗤う。



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