くろあか | ナノ

 四十九話 とっても簡単だ



嫌なことは、全部まとめて

ゴミ箱へ放り投げてしまえばいいんだ。




「兄様…!」
「あはははは、ははは!」
「…っぅ」

血塗れのまま立つイルミさんを見て、カルトちゃんがアレンへと殴りかかる。「ダメ!」と止めようとして、抑えようとして、身体が動かずに空気だけが漏れた。こんな時に!!と苛立つがどうしようもなかった。あっという間にカルトちゃんは距離を詰めてアレンへと飛びかかる。

―ガキィン!

カルトちゃんの構えた鉄扇とアレンの銃とが交差して甲高い音をてる。そのまま立て続けにカルトちゃんが鉄扇でアレンへと斬りかかる。ガギィン、ガィインと鉄と鉄がぶつかる鈍い音が静かな屋敷の中へ響く。

普段の冷静なカルトちゃんなら、ここは距離を取ったまま戦うだろうに今は頭に血が上っているのか動きが直線的だった。

「このっ…このっ!!!」
「あはっ、うふふ…いい顔ですね!兄が操られていると知って怒るその顔!とってもいいですよ!!」

あははは!とアレンの笑い声が屋敷に響く。楽しそうに、愉しそうに、笑う。なんとかしなきゃ!と思っても相変わらず体は動かない。感覚がない。

「兄様を!よくも!」
「うんうん。その気持ちはとってもわかるよ」
「何を!」
「ボクもね、大事な大事な妹が酷い目に合わされたんだ。とってもよぉくわかる」
「関係ない!」
「関係ない…?」

―ざわっ、
とアレンの雰囲気がまた変わる。

その様子にびくり、と震えた。そのただならぬ様子にカルトちゃんも一瞬にしてアレンから離れた。

「関係ない、関係ない、ないないないない???あはっ、キミは本当にお兄さんとそっくりなんだね!!!兄妹揃って!!どいつもこいつも!!」
「っ!」
「関係ないわけ、ないだろ…!!お前たちのせいで…!せいで!せいで!!!………まぁ、今はいいや!」
「…?!」

ころり、とまた笑顔に戻る。ケラケラと楽しそうに愉快そうにさっきまでの激情した様子なんてまるでなかったみたいに笑う。

「キミの相手はこいつにさせておけばいいよね。うん。やっぱり兄妹は一緒にいないとダメだよねぇ」
「…兄様!」

アレンが手をくい、と軽く振ると今まで人形のように止まっていたイルミさんがゆっくりとした動作で動き出す。その様子は本当に人形のようでぎこちなく、不自然に歩いてくる。

「兄様!」
「………」

カルトちゃんの声も届いていないのか、意識がない状態で操られているのか、なんの反応も返ってこなかった。その様子を見てまたカルトちゃんがギリッ、と強くアレンを睨む。

「殺す!」
「…ダメダメ、キミの相手はボクじゃない。」
「お前を殺せば、兄様は解放される」
「だから、ダメだってば。…ねえ、”イルミ兄様”??」

くすり、と小さくアレンが笑うと
イルミさんがゆらり…と動き出す。

「カルト」
「に、兄様…?」
「カルト、誰を殺すって?」
「…っひ!」

びくりとカルトちゃんが体を震わせる。イルミさんの声、雰囲気、オーラ、その全てがいつも通りだった。いつも通りだからこそまずい。

「カルトはいい子だよね?」
「……ぅ」
「俺を殺すの?」
「っち、が!」
「カルトは悪い子だね」
「っあ、あ!!」

絶対的な恐怖による、支配。幼い頃から体に叩き込まれた命令。イルミさんには、逆らえない。カルトちゃんが泣きながら、震えながら武器をおろしてしまう。イルミさんの言葉に、重圧に耐え切れずに崩れ落ちる。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、と小さくうわ言のように懺悔を呟く。

「カル…トっ、ちゃ…!!」
「キミもダメだよ。手出ししちゃダーメ。」
「ぐぅっ」

いつの間にか傍に居たアレンに銃を向けられて発動しようとしていた念、『乙女のささやき』を抑える。

「これで妹クンも毒が効くね。うん。」
「ど、いう…」
「ん?ボクの能力はね、『血飛沫の泡-ブラッド・ゲンガー-』」
「のう、りょく…!」
「そう。「視覚」「嗅覚」「触角」「聴覚」「味覚」そのどれかに触れてしまった瞬間に発動する―「毒」だよ」

にっこりと、やはり楽しそうにアレンは笑う。



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