くろあか | ナノ

 序章 はじまり




ほんの一瞬、
たった一秒、
わたしの世界は変わってしまった。



「大丈夫?寒くない?」
「お母さん、わたしは平気です!」
「ほんと?寒かったら上着あるからね?」
「はい!」
「寒かったら無理するんじゃないよ」
「…はい!お父さん」

少し肌寒くなってきた9月頃。
仲良く歩くひとつの家族。

ごく普通の会話をしながら
のんびりと街を歩いている。

母親に心配されながらも笑顔で歩く少女。その横を少女の歩くスピードに合わせてのんびりとした歩調で母親と父親が歩いている。

少女はにこにこと楽しそうで、
隣を歩く母親も父親も
幸せそうにはにかんでいる。


「水族館、楽しみです」
「ね。最後に行ったのいつだったかしら?」
「…仕事が忙しくて連れて行けなくて悪かったな」
「あなた…もう、いいのよ」
「…ああ」


どうやら親子は水族館に行く途中らしく、
他愛のない話をしながら進んでいく。

少女はふと、足を止めて前を行く二人をみる。


「(お父さんも、お母さんも、一緒)」
「(もう、ケンカしない…)」
「(ほんとにもう、元通りなんだ…)」

「ほらっゆあもうすぐ着くわよ?」
「ぼーっとしてると迷子になる…ほら」


暗い顔で少し泣きそうになっていると
前を行く二人が笑顔で振り返った。


「…!うん!」

その笑顔にゆあも
父親の伸ばした手に手を伸ばす。



―それは、一瞬の出来事だった。


「わあ!?」
「きゃあああ!」

遠くから聞こえてくる悲鳴や叫び声。
穏やかな日常を切り裂くけたたましい音。

―プップーッ!!

激しく鳴り響く車のクラクション。

―キキーッ!!!

いきなり歩道に、
父親と母親とゆあの前に
大型トラックが突っ込できたのだ。


「え、」

「「―――!!!!」」


瞬きをする間も

叫ぶ間も

伸ばした手も

名前を読んだ二人の声も


―――ドカァアアン!!!


爆音にかき消された。


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