わたしは変わってしまった
良い方にも悪い方にも
それでも傍にられるならいい
「(さて、さっさと終わらせちゃお)」
館長の挨拶が終わったのでずっと話していた少し変わった喋り方をする男の人にお辞儀してその場をあとにして近づく。
「(中国人みたいな喋り方だったなあ)」
カタコト、というかイントネーションが変わっていた。もしかしたらこちらの世界にジャポンのように中国に似た国があるのかもしれないけどいまはそんなことより、館長の暗殺の方が優先だった。
ターゲットの傍に近寄ると挨拶のあともあってか人だかりができている。ヒソカさんが護衛を殺っているはずだからそれが騒ぎになる前になんとかしなければいけなかった。
「(ふうん…よし)」
辺りにはボディガードが二人。念能力者はいない。それを確認してからそうっと絶を行って人ごみに紛れてターゲットへと近づく。
「『ささやく妖精』」
念を発動させて集中する。ターゲットは円の中にいる。周りには人がたくさん集まっているがコントロールするのは得意だった。イルミさんにも褒められたんだからね!
「『乱』」
込めたオーラをターゲットへと飛ばす。放出系の修行でやっていた球飛ばしの応用。『ささやく妖精』で込めた念を飛ばす。
『乱』は相手の三半規管にダメージを与えて眩暈、立ちくらみ、吐き気などを引き起こす。狙い通りターゲットに当たりぐら、と身体が揺れた。よし。効果あり。
どうしました!と少しだけ騒がしくなる会場。「大丈夫だ…少し眩暈が…」と制するとボディーガードに支えられてターゲットが移動する。
「(問題なし)」
絶を行ったままターゲットを追う。どこかで休ませるはずだからそこを狙うつもりだった。周りの人たちはわたしに目もくれない。絶を行っているから当たり前だったけど、そこにわたしがいないかのようにすれ違う。
そのままターゲットについていくと上の階、三階の部屋のひとつの中へと入っていった。ボディーガードが一人ついてはいっていく。外の見張りに一人、世話役に一人といったところだろうか。
「(大丈夫そう)」
絶は行ったまま影からそれを見る。
円で探ってみるが、それ以外に人はいない。
「『ささやく妖精』…『乱』」
「…ぐ、う?」
「静かにしてくださいね」
「っぁ?!!」
さっきと同じように『乱』でボディーガードの一人を攻撃する。ぐらっと眩暈を起こした瞬間を狙って近づく。後ろに回り込んで口元を覆う。ここで今、大きな声を出されたら困る。
「『斬』」
「…ぐ、ぇ…ぉ」
「おやすみなさい」
ボディチェックがあったので武器はなかった。なので音量は最小限に『ささやく妖精』で殺す。もちろん威力は最大だ。『斬』は刃物で切ったような攻撃。その鋭利な音はボディガードの首をざくり、と簡単に切り裂いてしまう。血が吹き出る前に離れて扉の中へと忍び込む。
―『斬』『斬』
「なんだきさっ!」
「ぅが?!」
「美術館ではお静かにお願いします」
叫ばさせずに侵入したと同時に殺す。首が二つごろり、と静かに転がった。部屋の中は一気に真っ赤に染まる。せっかくのドレスに血が飛ばないように気をつかったのもあってドレスは綺麗だ。
「お仕事完了です」
完全に死んだのをちゃんと確認してから(もちろん首が飛んだので即死だけど)はあ、と大きく背伸びをした。んードレスって身体痛くなるなあ…。
あとは逃げるだけ。最後まで気は抜かない。それで昔痛い目をみてるから。失敗は二度と繰り返さない。そう決めたから。
「『魔女の写鏡-トリックミラージュ-』」
「『鏡よ、鏡よ、鏡さん』」
自分の影に手をついて呟く。しゅるん、とみるみる小さな猫の姿に変身した。来る前にコピーした猫の姿だ。これは基本逃走や移動に使う。
ちゃんと絶を行ってから外へと出る。入口に転がっている死体をぴょん、と飛び越えて階段へと向かった。もうヒソカさんも終わらせてるだろうしイルミさんも大丈夫だろう。死体が見つかってしまう前にでよう。
「(まあ見つかってもなんとかなるけど)」
殺してしまえばいいんだから。
なんてにやり、と口元が歪んだ。
「(…っダメ!)」
はっ、と慌てて自分が考えていたことを思い返して頭を振って感情を振り払った。わたしは、殺しを楽しんでなんていない!
わたしは、殺しなんてしたくない!
わたしは、わたしは、わたしは…!
階段を駆け抜けるように走る。まるで何かに追われているかのように。黒い、暗い、歪んだ、何かから逃げる。
「?」
「…っ!」
外へ飛び出したときに誰か男の人と目が合った気がしたけど絶をしてる状態だし、見られていたとしてもわたしはいま猫の姿だ。気づくはずなんてない。と思い直して走り抜けた。